第39話 ひとつ屋根の下⑶

 紗耶香が呼ぶ。


 そちらの方向、ダイニングの入り口を見ると、シロ猫がトコトコと入ってきた。


「呼んだ、紗耶香ちゃん」


 アイリと彩音ちゃんは普通に食事を続けているが、俺はその日本語を話す白猫に素直に驚いてしまった。


 まん丸目玉のアルカイック顔。クロぼうの色を変えただけにしか見えない。


「私は清一郎さん以外の人を彼氏にするつもりはありません。一生彼氏を作れなくても清一郎さん以外とキス契約するつもりはありません」


「キス契約……って……」


「そうです。私も清一郎さんと同じように彼氏を作る契約を結んでいます。この夢魔さん、シロぼうさんと」


「!」


 驚愕の事実だった!


 驚きすぎて思わず椅子から立ち上がってしまったくらいだ。


 そのびっくり仰天の俺に、紗耶香が続けてくる。


「でも、『看破』を仕掛けたのは清一郎さんだけです。清一郎さん以外には『看破』を仕掛けてすらいません。清一郎さんの私への好感度がとても高かったので、生徒会室で思い切って告白したんです」


 ちょっと!

 聞いてない!

 それ、聞いてない!


 紗耶香が夢魔契約を結んでいるなら、状況は変わってくる。


 一ヵ月以内にキス契約で彼氏を作らなくちゃいけないという拘束があるはずだ。そして紗耶香が俺以外を彼氏にする気がないのなら、罰則のないアイリや彩音ちゃんよりも紗耶香を優先すべき事態になる。なぜなら、紗耶香が誰ともキス契約を結ばないのなら、紗耶香はずっと彼氏なしで過ごさなくてはならなくなるからだ。


 なんでそんな契約むすんじゃったの、紗耶香!


 いや、俺も他人のこと言えた義理じゃなんだが!


「もうすぐ、清一郎さんや私たちが夢魔さんたちと契約をしてから一ヵ月が経ちます。私は清一郎さんとこの一ヵ月付き合ってきて、互いの良い所、悪い所、見てきたと思います。私は清一郎さんに決断を求めます。もちろん私が選ばれればとてもとても嬉しいですが、それはアイリさんや彩音さんを捨てるという意味でもあります。それを背負いこむ覚悟、できてます」


「俺が……紗耶香を選ばなかったら……どうするんだ?」


 恐る恐る聞いてみた。


「想い出を胸に、出家して尼として生きていきたいと思います――というのは冗談ですが……」


「冗談ですが……?」


「清一郎さん以外の方は考えらえないので(ハート)」


「愛がっ! 重いっ!」

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