第5章 俺、打開策を練る

第37話 ひとつ屋根の下⑴

 三日後に、紗耶香とアイリが大きなキャリーバックを抱えて家にやってきた。


 アイリはトラックに引っ越し荷物を詰めてやってくると主張したのだが、俺が拒否した。


 どのみちあと数週間足らずの共同生活。


『キス契約』を誰とするのか、という選択を俺がするまでの間なのだ。


 空き部屋がなかったので、紗耶香とアイリには彩音ちゃんの部屋に同居してもらうことになった。


 彩音ちゃんの部屋は普通の広さの個室で、三人入るとかなり狭い。アイリは俺の部屋を強く所望したのだが、それを認めると紗耶香も彩音ちゃんも俺の部屋に一緒ということになって収集がつかなくなるので、アイリには渋々彩音ちゃんの部屋で納得してもらった。


 そして共同生活を始めてから一週間が過ぎた。


 紗耶香やアイリや彩音ちゃんが暴走して突撃してくることもなく、平穏な毎日。


 最初は、誰々が俺と会話して抜け駆けしたとか俺のそばに近づきすぎだとか、そういったことでギスギスしていたのだが、そのトゲトゲも寝食を共にしてゆく中で溶けて行った。一つ屋根の下で寝起きを共にしていれば勝手知ったる仲にもなろうというものだ。


 今ではみんなリラックスして肩の力が抜けているというか、外面を取り繕わない近しいライバル同士の様な関係になりつつあった。


 コップの配置とか、自分の歯磨きを使わないでとか、そういった取り留めもない日常がしばらく続いて、皆馴染んでいる。


 それで肝心の『キス契約』。


 クロぼうとの夢魔契約から数えて一ヵ月の猶予期間が迫っていた。


 紗耶香やアイリや彩音ちゃんに申し訳ないと思いながら、実は学園で『看破』を続けていたのだが、みんな好感度は1か2。試しに少し声を掛けてみても「キショ!」とか「変質者!」といった反応で、挙句の果てに通報されたりで、とてもアタックして『キス契約』なんて結べない。かといって超問題児たちの三人と『キス契約』をする訳にもいかない。

 

 誰か一人だけを選んで他の二人を排除するのは躊躇われたし、仮に無理やり一人を選んでも、その一人は普通の彼女にはなりえない。夢見ていた甘い学生生活どころか、社会的に破滅する道まっしぐらだ。


 でもあと一週間で誰かと『キス契約』しないと……夢魔の呪いで俺は一生彼女がつくれなくなる。


 それはいやだ!


 彼女を作れないのなら今までと変わりはないか……とお気楽に考えていたのだが、実際にそういう立場に立たされてみると絶対嫌だと思ってしまった。


 ならばどうする?


 一生童貞で過ごすくらいならヘンタイ性癖に目をつむって誰かを選ぶか?


 優等生痴女か?


 マゾっ娘幼馴染か?


 実の姉か?


 ここのところ、その悩みが頭を離れない。学校にいても、自室で一人休んでいても。またはあの三人とわいわい過ごしていても、だ。

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