第35話 彩音ちゃんと添い寝⑴
「それはそれは大変だったわね」
夕食時に、彩音ちゃんに少しだけ。少しだけアイリとの接触に関しての愚痴をこぼした。
彩音ちゃんは察してくれたようで、俺の消耗した心をやんわりと包んでくれた。
彩音ちゃんが俺との背徳的な関係を求めているのは知っているのだが、彩音ちゃんの俺に対する家族的な愛情は疑っていない。
いや。彩音ちゃんには彩音ちゃんの問題があるのだが、それでも彩音ちゃんは俺の母親代わり。彩音ちゃんに未だに甘えたい気持ちはあって、アイリの事を話すのはアイリに悪いという思いはあったのだが、彩音ちゃんはきちんと受け止めてくれたのだ。
こうして久しぶりにアットホームな俺と彩音ちゃんの夕食で、俺は癒されたのだった。
テーブル脇に問題を持ち込んできたクロぼうが我関せずといった顔で食事をほおばっていたが、これは無視。
お風呂でゆっくりと温まってから、消灯して自分のベッドに潜り込んだ。
やはり自室はいい。落ち着く。平穏に包まれてうとうとと意識が沈んでゆこうとした時……ガチャと、扉が開く音がした。
夢うつつの中で、意識が僅かに目覚める。
ぼんやりとした中、ドアの音がした?……と思いつつも、疲れた身体と脳が動くのを拒否してそのままうつらうつら。また眠りの中に戻ろうとしたが、暗がりの中、ベッドに潜り込んでくる気配に知覚が目覚める。
「清ちゃん。清ちゃんの気持ちが疲れていたようなので。久しぶりだけど」
背中越しに小さな音が耳に聞こえた。
「彩音……ちゃん、か……」
格別の驚きはなかった。何故って俺は中学生に上がるまでは物凄く甘えたがりで、彩音ちゃんによく添い寝してもらって一緒に寝ていたからだ。
アイリの家から逃げかえってきてからの彩音ちゃんの優しい母性も、俺の警戒心を和らげている理由の一つだった。
「昔清ちゃんにたくさん添い寝してた時の続きよ」
ああ、そういうことなのか。
それも悪くないかもしれない。
彩音ちゃんのぬくもりが、背後に感じられる。
彩音ちゃんのゆっくりとした呼吸音。癒しの音楽の様に、俺のストレスを溶かしてゆく。
彩音ちゃんの微かな匂いが、鼻に届いている。
よく俺の身体に馴染んだ、優しくて安らぐ香り。
このまま安寧に包まれて眠ろう、思ってまた意識を鎮めてゆこうとした時、彩音ちゃんが後ろから俺の肩に手をまわしてきた。
「安心して。疲れている清ちゃんには何もしないわ。私は清ちゃんと一緒に眠れるだけで嬉しくて。清ちゃんはゆっくりと休んで」
「ああ……。ありがとう」
短く答えて、彩音ちゃんの気遣いに感謝して眠ろうとしたところで、彩音ちゃんの腕にいつものパンダ柄パジャマがないことに気付いて僅かな「?」が浮かぶ。
彩音ちゃんと毎日の『おやすみなさい』をする時はいつだってパジャマ姿だし、今日はさほど暑くはないのでパジャマを着ていないということはないだろうという思考が芽生える。
むしろ、パジャマを着ていないということは下着だけだということで、その格好で俺のベッドに潜り込んできたのなら、気遣いがあったとしてもそれはそれで問題なのだ。
「彩音ちゃん」
完全に目が覚めてしまった俺は寝返りを打って、彩音ちゃんに向き直った。
「はい。清ちゃん。なに?」
彩音ちゃんの大人びた目鼻が眼前にくる。
「一応確認しておくけど、下着の上にはキャミソールかなんか着ている……よね?」
「いいえ」
彩音ちゃんはいつもの様な柔らかな微笑をその顔に浮かべた。
「今は何も着てないわ。せっかく清ちゃんと一緒に眠れるので」
「はい……?」
「何も着てないの。下着も何も。生まれたままの姿よ」
一瞬思考がとまり。
それから俺は跳び起きて、掛けていた毛布を跳ね除ける。
本当に生まれたままの、もっと言うとスッポンポンの彩音ちゃんが俺の隣に寝ているのだった!
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