第34話 アイリと一緒にエロゲ⑵

 画面が変わり、ヒロイン愛理の登校場面が現れる。


 その愛理がメイドとして仕えているのが同じクラスのご主人様。


 そして場面は一機にご主人様の部屋へと移る。


 ご主人様に捕まってしまった愛理と、その部屋で行われ始める「虐め」の数々。


 初めはいやいやながらの愛理だったのだが、徐々に流され、快楽に目覚めてゆくというストーリー。


 最後には身も心もご主人様を愛する恋人として生まれ変わった愛理が、主人公と結ばれるという話だった。


 エロゲ―はやらんでもないし、エロ動画もよく見る(思春期だからね!)俺だったが、こういう作風のものは初心者だった。


 キツいっ!


 隣のアイリの様子が気になってちらりと見やったところ、両手を胸の前で握りしめて蕩け顔で羨ましそうに画面を見つめていた。


「私も、愛理ちゃんみたいに清一郎の『虐められっ娘』になりたい……。主人公が清一郎で私が愛理ちゃんで! 清一郎にあんなふうに虐められたらって思うと……」


 ゲームのタイトルにもなっている『虐められっ娘』というヤバげなパワーワード!


 セリフはイッてしまっているのだが、その綺麗な造りの顔は夢心地の乙女の表情。


「ねえ。私今、すごくドキドキしているわ。清一郎はどう? 私と……こんな素敵なプレイ、してみたくない?」


 アイリがこちらを見つめてきた。

 ねだるような上目遣いの目線に不覚にもドキッとしてしまった。


「自分でもノーマルじゃないってことはわかってる。でも、目覚めてしまったのはどうしようもなくて、自分の欲望は抑えきれなくて」


 アイリが俺をじっと見つめてくる。

 うっすらと頬が染まっている。


「自分の性癖に悩んだこともあったわ。でもそんな自分を誤魔化そうとしても誤魔化しきれなくて……」


 こいつもこいつなりに色々あって考えているんだな、と気持ちがぐらりとアイリに傾いた。


「お願い。本当の私を……受け入れて……」


 小動物の様にご褒美をねだるしなだれ顔。

 正直、物凄く破壊力があった。


 いつもは強気でイケイケのアイリ。そのアイリが見せた男の俺に対して寄りかかるような女の一面。そのギャップに男心をくすぐられて萌えてしまう。ゲームの内容がなければ、視界に映るアイリの見目だけだったら、とても魅力的で抗いきれない小悪魔の魅力。


「大丈夫」


 アイリが俺の心中を見越したかのごときセリフを囁いてくる。


「私は完全に同意しているわ。私だって嫌な相手に虐められるのは好みじゃないの。最初は清一郎の好みのノーマルなプレイからでいいわ。清一郎なら、最後には猛獣の様に私を虐めてくれるって……期待してる(ハート)」


 ふふっとサキュバスの様に微笑みながら、アイリがそのビスクドールの様な顔を近づけてきた。


 知ってはいるのだが、とても綺麗な面立ち。

 吊り上がり気味の目。つんとした鼻筋。小さくて可愛い唇。

 アイリが目をつむって薄く唇を開く。俺を求めてくる少女の柔らかそうな唇。


 自然と心臓が高鳴った。ドキドキが止まらない。俺の男としての本能はアイリという「女」を求めている。普通の男女の関係なら、アイリとそういう仲になってみたいという思いはある。なんといっても幼馴染で、昔はとても仲の良かった女の子。そのとても馴染んだ女の子が思春期の少女に成長して俺を誘ってきている。


 だがしかし……と俺はここでなんとか堪える。


 ここでアイリの色仕掛けに屈するわけにはいかないのだ!


 ヘンタイマゾッ娘痴女のアイリの誘惑に屈したら、あとはカオティックでただれた関係にまっしぐら!


 俺は……


 俺は……


 アイリが止まったように反応しなかった俺に、パチリと目を開く。


「俺は、『彼女』が欲しいだけなんだーーーーーーーーーーーーー!!」


 虚空に叫んで部屋を飛び出す。


 そのまま階段を駆け下りて玄関から外へ。


 アイリをそのままにして逃げ去るようにして自宅へ疾駆するのであった。

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