第32話 緊急会議

「こんな体育館倉庫でなんて! ヘンタイ痴女が考えそうなこと! どこでもいいなんて発情した痴女ネコは!」


 紗耶香に拘束を解かれた俺は、アイリと彩音を呼んで緊急会議を開いている所だった。

 いや、体育館倉庫でなんだけど。


「残念です。男女として結ばれるところで、清一郎さんに拒否されてしまいました」


「確かに『キス契約』の抜け駆けをしないという協定には違反しないけど。清ちゃんにその気がないから、仮に無理やりのキス契約をしても無効なのだけれど。アイリさんの言う通り、こんな場所で清ちゃんの童貞を散らすのはもったいないわ。私なら瀟洒なホテルのスイートルームがいいところよ」


「あんた、実の姉のくせになにいってるの! 実の姉が実の弟と結ばれるわけないでしょ!」


「今は紗耶香さんの独断専行を裁断するのが先よ。仲間割れしている時ではないわ。あとは言っておくと、実の姉弟だからこそ、分かり合えるということがあるの。私は私の背徳的な欲望に忠実に、清ちゃんと添い遂げる覚悟よ」


「ちょっと待ってくれ! 俺、置いてきぼりなんだが!」


 たまらず声を上げた。


 ちょっと落ち込んでいる様子の沙耶香と、バチバチと火花を散らしているアイリと彩音ちゃんが同時に俺に顔を向けた。


「残念です。あと一歩で私と清一郎さんは男女のただれた関係になれるところでしたのに」


「だからそんなことは許さないって言ってるでしょ! 抜け駆け禁止の制約はどうなったのよ!」


「勝手にキス契約をしないという協定です。それ以上でもそれ以下でもありません」


 また出た! 抜け駆け禁止の協定!


 俺のいないところでこの子たち、本当に何やってんだ?


 ちょっと、女の子同士の関係がわからない。いや、もちろん彼女いない歴=年齢の俺に女性の機微がわかろうはずもないのだが、この人たち、影で何やってるかわからないという不安がひしひしとある。


 だってこの娘たちまともじゃないんだもん(ごめん彩音ちゃん。でも彩音ちゃんも!)。


 ちょっと前までは、彼女が欲しい欲しい病だった俺には女の子に対する憧れというか幻想を持っていたんだが、この娘たちには不安というか不穏しか感じない。


「でも紗耶香さんの気持ちもわかるわ。清ちゃんは異性から見てとても魅力的だから思わず手を出してしまいたいというか、清ちゃんの最初を奪って自分の初めてを清ちゃんに差し上げたいと思うのは自然だと思うの」


「だから! あんたは姉なんだからその思考がもうどっか狂ってるのよ。自分がおかしいの、わかってる?」


「ええ。アイリさんの言う通り私は特殊だけど、それに対する良心の呵責等は全くないのも言い添えておくわ」


「ふんっ!」


 アイリが鼻息荒くそっぽを向く。


 そしてとりあえず無事に済んだ俺が、三匹の猛獣に対してこわごわと所信表明を行う立場となった。


「紗耶香。それからアイリと彩音ちゃん。とにかくちょっと……自重してくれると助かる。俺も正直、途中までその気にならないことはなかったんだが……紗耶香が魅力的だったから、ってそういうことじゃなくて! その……拘束されて無理やりとか、俺も彼女に憧れる童貞だから、初めては同意の元のノーマルな甘々なのがいいと、希望いたします!」


 おっかなびっくりだったが、ここで三人に宣言しておかないと何されるかわかったもんじゃないので言い切った!


 どうだ?!


 反応は?!


 まず紗耶香が済まないという様子で謝ってきた。


「すいません。自分の欲望に負けて少し暴走してしまったかもしれません。こんどからは正攻法で清一郎さんを誘惑しようと思います」


「そうね。三人の事よく知ってもらって、そのうえで清一郎に選んでもらうなら文句はないかも」


「私は以前から清ちゃんをシェアするのがベストだと思って提案しているのだけれど」


 ………………


 わかってもらえたのだろうか?


 一抹の不安はあるというか、その不安をぬぐい切れないのだが、とりあえず三人が暴走して俺に突撃してこなければオッケーだ。


 彼女を作るキス契約の事は、とりあえずは棚の上に置いておけばいい。三人の中から選ぶにしろ、その他の女の子を選ぶにしろ。


「頼むからな、紗耶香、アイリ、彩音ちゃん」


 俺の語りかけに、


「「「はい」」」


 三人は殊勝に返事を返してきて、その場はお開きになったのだった。

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