第31話 手品⑵
「見せるまでもないんです。私と清一郎さんはここで結ばれるのですから。お互いの大事な部分、繋がるんです」
ふふっと、自分の言った言葉に嬉しそうに笑う紗耶香。
「別に『契約のキス』は要求しません。まずは身体の相性を確かめてから……ですね」
なんで『契約のキス』の事知ってるの!
つーか、そういう場合じゃない!
俺は拘束されていて動けない!
俺の貞操が危ない!
いや、マジで、ほんとに!
「清一郎さんは初めてですか? 私は初めてです」
紗耶香が俺の目の前に立っている。
「清一郎さんの初めてをもらうの、すごく興奮します。私の初めてももらってほしいです。私と清一郎さんが『体操する』と……あら不思議。人体の神秘、赤ちゃんの出来上がり、という『手品』です」
言った後、顔をほころばせる紗耶香。
「いや、それ、手品じゃないから!」
俺の突っ込みも空しく虚空に消えてゆく。この場所じゃあ叫んでも誰も助けに来てくれないだろう。男と女の立場が逆だ。逆ならよいというわけじゃないんだが。
「本当は『皆が見ている』教室とかで『手品』をしたかったのですが。皆さんに清一郎さんとの手品を見てもらえるのが女の幸せなんですが、流石に止められるか先生を呼ばれるか。邪魔が入ると思いましたので」
それはそうだ。あたりまえだ。
教室で、こいつの欲望通りにこいつの言っている『手品』を始めたら、通報されて少年院か頭の病院送りだ。俺も。こいつも。
――と。
紗耶香がリボンをほどいて、それがひらひらと床に舞い落ちる。
ブレザーを脱いでブラウスに手をかけ、妖艶な仕草でそのボタンを一つ一つ外してゆく。
俺の前に、綺麗な上半身の肌、真っ白なブラジャーに包まれた豊かな双丘があらわになった。
俺は目も離せないで、いつの間にか口内に溜まっていた唾液をごくりと飲み込む。
白いブラジャーに覆われた二つの双丘。普段はそのブレザーに包まれてそれほどは目立たないのだが、とても大きく形良い。柔らかそうで、揉みごたえ抜群に思えてしまう。って、俺、何考えてんだ! 正気に戻れ!
『遠見』の映像ではない。目の前の現実に、実物があるのだ。手を伸ばせば、もちろん手は拘束されていて伸ばせないのだが、それに触れることができるのだ。
見てはいけない。この危機から逃れなければいけないと、脳内でアラートが鳴り響いている。しかしそれとは逆に俺の目は、綺麗でエロくて妖しいピンクに染まった紗耶香の姿にくぎ付けだった。
「これは『契約のキス』ではないので、気軽な気持ちで楽しんで私を味わってください」
紗耶香の顔が俺に近づいてきた。
顔がアップになる。
長いまつげ。ほんのりと色づいた頬。綺麗で柔らかそうな唇が、そっと開かれる。
作り物めいた、でも同時に生々しくもある妖艶さが俺に近づいてくる。
魅入られたように目が離せない。
その紗耶香の息が、俺の鼻から入って脳髄を蕩けさせ。
俺の口と紗耶香の唇が重なる――
という瞬間に、俺は最後に残った理性を振り絞って言い放つ。
「ダメッ! やめてくれっ! やったら、俺は金輪際お前を選ばないっ!」
どうだっ? と残っていた意志で紗耶香を見やる。
一瞬動きを止めた後、しゅんと意気消沈した紗耶香がいるのであった。
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