第30話 手品⑴
紗耶香からのラブレターには、「放課後、体育館倉庫で待ってます」とだけ書いてあった。
無視するわけにもいかず、午後の授業が終わってから廊下を進んで体育館に入り込んだ。
アイリに対しては、ちょっと個人的な所要があるといって誤魔化して、ここにやってきている。
あまり良い感じはしない。というか、嫌な予感しかしない。
放課後の体育館倉庫だと、隔離部屋に紗耶香と二人きりになってしまうのだ。
まだ部活動の生徒たちが姿を見せていない人気のない体育館を進み、奥まった扉を開いて仲に入る。
ちょっと埃っぽい匂いがする空間に、マットレスや跳び箱台、バスケットボールが詰め込まれたカゴなどが所せましと詰め込まれていた。
その中心のちょっとだけ広く空いている空間にパイプ椅子が一つぽつんと置いてあって、その横に制服姿の紗耶香が一人立って待っていた。
「清一郎さん。きっと、必ず、来てくれると信じてました」
紗耶香が自分の胸に手の平を当てて、感謝の微笑。
「NINEでもよかったのですが、手紙の方が気分が高まるかと思いましたので。ここに来られるときに少しでもドキドキしていただけたら、その甲斐があったと思えます。どうでしたでしょうか?」
「いや。今も何が起こるのかとドキドキしているんだが。違った意味で。で、その椅子はなに?」
紗耶香の横にあるただのパイプ椅子が気になったので聞いてみた。
何の意味もないということはないのだろうから。
「手品をお見せしようと思いましたので」
「手品……?」
意味が解らない。
こんな場末の誰も来そうにない場所に俺を呼んで手品を見せようという。
学園のアイドルがクラスで披露すれば皆が喜びそうなものだが、思っていると。
「まずはここに座ってください」
温和で柔和な口調で俺を促してきたので、まあ手品程度ならと思い椅子に座る。
それから紗耶香が、俺の手足を椅子に縛って拘束する形になった。
脱出マジック……か何かか?
俺の疑問に対して、紗耶香は全く別の話を振ってきた。
「話は変わりますが、私、昨日の登校で……服装に秘密があるって言ってましたよね」
「? 確かに……覚えはあるが……」
「私……昨日もなんですが、今日もまた秘密があって……」
紗耶香が俺の前で、頬に両手を添えて恥じらう仕草。ふるふると女の子らしく身体を左右に揺する。
「で、秘密って何?」
よくわからないが、制服姿を見る限り普段と変わりはない。青のブレザーに、同じく青のミニスカート。襟元に二年生の色の赤のリボンがきちんと結ばれている。学園の優等生にふさわしい、着崩れのない学生モデルの様な見姿だ。
「……穿いてません」
紗耶香がその嬉し恥ずかしといった赤ら顔を俺に向けてきた。
「何を?」
「パンツです」
俺は口に含んでいたコーヒーを噴き出してしまった。いや、含んでいないけど。
「昨日も今日も。だから昨日と今日と二日連続で、清一郎さんと一緒にノーパン登校プレイです」
確かに!
昨日、トイレに閉じ込められた時も、紗耶香はそのまま便座に座ってパンツを脱いだ形跡がなかった。
「それは穿いてこいよ! つーかこの学園、スカート短いんだからヤバいだろ、色々と。そこは女の子の恥じらいとか以前に常識を期待したかった!」
衝撃を受けつつも、こいつならあり得るかという思いもないではない。パンツ丸見せにして告白してきた女だし、『遠見』で一人プレイとかも見てしまっている。
「見たいですか?」
「何……を……?」
恐る恐る聞き返す。返ってくる答えが恐ろしい。
「女の子の、秘密の部分、です。今……私……ノーパンで一緒に清一郎さんと二人きりなので、興奮してます。見ますか?」
「見たいのも見たくなくなるわ! 余計に! そこは女の子の恥じらいを大切にしてほしい所だ! 美少女に幻滅しそうで、今、たじろいでる所!」
「むしろ……見てほしいんですが……」
紗耶香がスカートの裾に手をかける。
ちょっと! 俺が望んでいる女の子をエロさは、そういうんじゃない! もっと、なんというか、高尚で光り輝くものだ! たぶん。
紗耶香が欲情した面持ちで近づいてきた。
その近づいてくる仕草、動きも、なんというか妖しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます