第4章 俺、もうダメかもしれん……

第27話 三人組と一緒にお弁当

 翌日の昼休み。


 チャイムが鳴って教師が出て行った途端に、「また」紗耶香とアイリが寄ってきた。


「清一郎さん。一緒に昼食にしましょう。厚生棟の食堂はいかがですか?」


「清一郎。購買、早くいかないと焼きそばパン売り切れちゃうんだけど」


 ……昨日の騒動、悪夢がフラッシュバックした。


 また二人に絡まれての地獄コースなのか? と、暗澹たる思いに眩暈がした。


 二人を見ると、紗耶香は期待に胸を膨らませているというドキドキワクワクと言った表情。アイリは鋭い眼光に無言の圧力。


 目をそらし、なんとかこのピンチを切り抜けねば、と頭を抱えながら出口を必死に探す。


 そんな俺に助け船が……


「四人で一緒にお弁当にしましょう」


 聞きなれたメゾソプラノのメロディが流れて、目を開けてそちらを見る。


 いつの間にか教室に入り込んでいた彩音ちゃんが、俺の脇に立っていた。


「昨日の深夜、三人で抜け駆け禁止の協定を結んだことでもありますし……」


 手に持っている風呂敷包みを掲げる。


「三人をよく知ってもらっていずれ清ちゃんに選んでもらうきっかけにしてもらうというのがプラス方向だと思うわ」


「そうね。まともな意見だと思うし今日は気が利くわね。今まで私と清一郎の邪魔ばっかりしてきたのは忘れないけど」


「いいと思います。お互いライバル同士ですが、清一郎さんの事が好きな同志でもあると思いますから」


 三人で意気投合している雰囲気が漂ってきた。


 互いに争わないでくれるのは俺としては願ったりかなったりだった。


 まあ、今となっては彩音ちゃんも含めて、この女性たちが心中で何を考えているのかは定かではないのだが。


 で? 抜け駆け禁止の協定って何? という俺の疑問もそっちのけで、


「お昼にしましょう」


「そうね」


「そうですね」


 どうやら方向が決まったようなので俺も立ち上がった。


 学園高等部の二大アイドルの紗耶香とアイリ。学園の大学で有名な彩音ちゃん。三人に囲まれて昼食という男冥利に尽きるというシチュエーション。


 なのだが、猛獣三匹に囲まれて誰の餌になるかという状況にしか思えないのがなんともやりきれない。


 周囲の目も怖い。いままで学園で構う生徒がいなかった俺だから達観している部分は大いにあるのだが、それが男子生徒の敵意と女子生徒の娯楽に変わるのは勘弁願いたいという気持ちもある。


 もはや、この三人に抗うすべがないと思い知る。


 俺、ここから逃げかえって自分の部屋に籠って引きこもりになっていい? とか誰にともなく許可を得たいくらいなのだ。


 クラス中の注視の中、俺は三人と和気あいあいの雰囲気で、でも実は拘束された囚人の様な気分で、教室を後にして引きずられてゆくのであった。

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