第25話 遠見で沙耶香を覗く
紗耶香がいた。
白のカーテンと、シックな木目の机。柔らかそうなふかふかのベッドに、小物が綺麗に棚に並べられている。白を基調にしたとても上品で上質な部屋。学園の優等生生徒会長アイドル(表面上)高城紗耶香に似つかわしい装いだった。
その部屋の中心に「制服姿」の紗耶香が立っているのだが、目についたのは紗耶香の前のテーブルにある額縁入りの俺の写真と、脇に設置された一眼レフ。
「清一郎さん……」
紗耶香が甘い抑揚で俺の写真に語りかけた。
なにやってんだ、紗耶香は?
突然の画面に俺は戸惑うが、紗耶香には当然届かない。
「今日の昼休みの男子トイレ。素敵な二人だけの時間でした」
紗耶香は自分だけの世界で行動を進める。
「今日も、私の淫らな姿……見てください……」
紗耶香は言いながら、いきなり変な格好のポーズを取り始める。
しなを作った妖艶な立ち姿から、制服のまま地面に四つん這いになってお尻を突き出す。それから仰向けになって大きく脚を開く。
パンツが見えてしまっているが、一度生徒会室でじっくりみているのでそれほどの興奮はなない。いや、まあ、昂ぶる男の部分はあるんだけれど、『遠見』での映像であることもあってまだ冷静ではいられる。
それよりなにより、紗耶香が全面の俺(の写真)に見せつける様に卑猥なポーズをとっているのがむーんという感じだ。紗耶香ならそういうこともするのかという納得感はある。実物の俺に対してそれを行わないだけ理性的だと思うことにする。うん。そうしよう。
パシャ、パシャっと、三脚に立ててある写真機がオートでその紗耶香のエロモデルみたいな卑猥な格好を撮りまくっていて、なに一人で喜んでるのか? という突っ込みはあるのだが、俺が思っているだけなので、そのまま流れに任せて眺めている。
一通り写真を撮り終えると、紗耶香はふうっと息をつき、満足気にベッド淵に腰かけた。
「今日のお勤め終わりました、清一郎さん」
ニッコリと、テーブルから持ってきた写真立ての俺に微笑む。
それから胸ポケットから数枚の別の写真を取り出して前に並べ……
!!!!!!
それを『観』て、俺は心臓が止まるかという程の驚き、衝撃を受けた。
ぱっと見は、単なるエロ写真だった。いや、エロも十分問題なのだが、俺も思春期の男の子。エロ画像とかエロ動画はネットでよく見ているのでその部分にそれほどの驚愕はない。紗耶香がそういうものを持っているというのも規定内。本質はそこにはなくて、その写真内、全裸で絡んでいる男女が『俺と紗耶香』だったのだ!
なんじゃあそりゃぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!
写真をうっとりと眺めている紗耶香に対して思わず声を浴びせてしまった。
「清一郎さんと早く本当にこうなりたいです。そして……その二人の愛の姿をネットに投稿して皆さんに見てほしいです」
そうのたまう紗耶香の頬は染まっていて、顔が上気している。目と唇がとろんとして、表情が蕩けている。
「本物じゃなくてこの合成写真でもいいから投稿してしまいたいですが……それは清一郎さんの許可を得ないといけません……ね」
紗耶香がエロ写真の俺に、甘く切なく語りかけ始める。
「今私、清一郎さんと見つめ合っています。すごくドキドキします。早く……こうして本物の清一郎さんに生まれたままの私の果実、味わって欲しいです」
言いながら、いきなり自分の胸を揉み始める。
「清一郎さん、ダメ……そんなこと……でももっとして欲しいです清一郎さん……」
「ちょっと、紗耶香、ダメ、それダメだから!」
「こっちの姿も見えないし声も届かないよ」
クロぼうが何でもないという声音で説明を挟んできた。
「中止、これ中止!」
「距離を置いて離れるといいよ」
言われた通り、俺は紗耶香から離れる。
イメージが遠くなり、視界に自分の部屋が戻ってきた。
俺は乱れた心とドクドクいっている心臓を落ち着けるように、ふーふーと何度か深呼吸する。
「どうだった? 紗耶香ちゃんも大胆だったね。紗耶香ちゃんとキス契約する気になった?」
クロぼうが「ごはん美味しかったね」と言う様な調子で聞いてくる。
「驚いた。紗耶香……なんてもの作ってんだ……。学園の美少女アイドルじゃなかったのか? ただの……痴女? いやまあ、わかってはいたんだが……」
見たくないものを見てしまった感があった。
なんなんだ、あの合成写真。
それを紗耶香がたくさん持っていて、ネットに投稿したいという。
あれがネットに投稿されたら俺は……頭を抱えてしまった。俺の許可を得なければと言ってはいたが、痴女っ子の紗耶香はその羞恥を求める欲望に押されて、いつ何どき行動にでるのかとも思ってしまう。
問題が一つ増えてしまった!
どうしよう……泣きたくなるような気持ちの俺に対して、
「次いってみようか?」
クロぼうは全くノーダメージの誘い。
「アイリちゃん」
「アイ……リ……か?」
確かにアイリならば紗耶香よりも勝手知ったる仲だ。
アイリなら、こちらの予想を超えた映像が飛び込んできてダメージを受ける可能性は低いと思われる。
もう紗耶香に『遠見』は使えない。というか、使いたくない。しかしそれでもなお紗耶香の行動、日常? を知ることができて紗耶香を選ばない理由に付け加えることができたという収穫もある。
俺は、こわごわながらアイリの姿をイメージして『遠見』を唱えたのであった。
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