第24話 遠見

 結論から言うと、紗耶香とアイリはさしたる注意を受けずに放免になったが、俺はこっぴどく叱られた。

 次に同じような事件を起こしたら停学もありうると脅されて。


 日頃の行いというか、立場の違い。カースト最上級者と下位者の置かれた位置の違いをまざまざと見せつけられたようで、ちょっと鬱になった。ちょっとだけだけど、な。


 数日前の夢魔クロぼうとの接触から始まった事件が想像を絶しすぎていて、なまじっかな事では動じない胆力が養われていたらしい。


 それでも俺の精神を追い詰める紗耶香とアイリ、恐るべし。


 放課後もなし崩しに三人で下校した。


 俺の家のある一般分譲住宅地区入口で、紗耶香やアイリと別れて。


 その後、家に戻ってきてからは彩音ちゃんとのいつも通りの日常。夕食や風呂を終えて、夜自室に帰ってきて鍵をかける。


 今までは鍵なんてかけたことはない。彩音ちゃんは素通りで、俺の部屋の掃除までやってくれていた仲だ。


 帰宅してからの彩音ちゃんの振る舞いに違和感を覚える部分はなかった。しかし昨日お風呂へ彩音ちゃんが突撃してきたことと、今日の学園での紗耶香とアイリとの騒ぎを考慮に入れて、念を入れて部屋をロックすることにしたのだ。


 彩音ちゃんにも気をつけなくちゃならんとは……ちょっと気が滅入ってしまう。


 気の休まる場所が隔離された自室しかないというのは……なんというか、重い!


 身体を伸ばそうとして、ベッドに両手両腕を広げて大の字になってみる。


 そのままうーんと伸びをして、リラックス。


 少し心が落ち着いてきた――気がする。


 その安寧を破るが如く、部屋の隅にある段ボールを改造した猫ハウスに丸まっていたクロぼうが声をかけてきた。


「どうだい。紗耶香ちゃん、アイリちゃん、彩音ちゃんの中から誰を彼女にするか決められそうかな? どの子もお勧めなんだけど、個人的には彩音ちゃんがいいかも。ごはん美味しいから」


「お前の都合で勝手な事いうな。彩音ちゃんは実姉だぞ。千歩譲って、紗耶香やアイリはその性癖の餌食になることを覚悟して彼女に選べても、彩音ちゃんはない。餌に釣られやがって、このクソ猫が」


「なら、『遠見』を使ってみるといいかもしれないよ」


「なんだその『遠見』ってのは? お前が言うと、妙にアヤシイ雰囲気がプンプンなんだが」


「『看破』をした相手には『遠見』が使えるよ。夢魔契約者が使える魔法の一つだよ。相手の女の子をよく知ってキス契約するかどうか検討するためにね。その女の子を頭の中でイメージして。遠くから覗く感じだよ」


 クロぼうを胡散臭そうに見やる。


 そんなんできるのか? 思いながら、でもこいつの言っていた『看破』は本物だったと思い直して、とりあえず紗耶香の姿を脳内でイメージする。


『遠見』と唱えると、目の前がぼやけてうすぼんやりとした霧に変わり、映像が見えてきた。

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