第22話 廊下で二人と
下駄箱で上履きに履き替え、そのまま階段を上がって紗耶香アイリと廊下を進む。
予鈴までまだ余裕のある時間帯なので、校舎内には生徒たちの姿が多い。
その生徒たちが、皆、俺たち三人に注目していた。
ある男子生徒たちはじっと何も言わずに凝視して。またある女生徒グループは俺たちを指さしながら何か秘密の会話をささやく様子で。
昨日の朝、クラス内での二人との接触で噂に噂が広がり、俺たち三人はいきなり時の人になったようなのであった。
俺の両脇に紗耶香とアイリ。サンドイッチされる形の俺。両手に花。その花も学園の二大美花だ。通常なら年頃の男子としては夢にまで見るシチュエーション。
だが少しも嬉しくないのはなぜだろう。
なにか、虎とライオンがいる檻の中に閉じ込められたような感覚。
紗耶香が腕を絡めてきた。
紗耶香の柔らかい胸が当たって、髪からはシャンプーの甘い香りが漂ってくる。
アイリが対抗して反対側の腕を取った。
アイリの胸は大きくはないが、その身をぎゅっと俺に押し付けてきて、女の子の弾力を感じる。
これは……
嬉しくなかったのだが、ちょっと興奮する……かも……しれない。
今まで三人とかかなりの過激な会話をしてはいるのだが、身体的な接触は多くはない。
紗耶香とアイリに絡みつかれて、その女の子の柔らかい弾力を感じさせられているのは、かなり、かなり男の本能を刺激する。
うわ。これはかなり嬉しくてドキドキして興奮するかもしれない。
周囲の生徒たちも、紗耶香とアイリの挙動に波打つようだ。
それもそうだろう。学園の二大美少女として、カースト上位のイケメンですら告白すら出来ずにひれ伏していた二人が、俺に媚びを売っている様に縋り付いている。
男として頂点に立っているという征服感に酔いしれてもよい場面なのだ。
だがしかし。紗耶香もアイリも猫被っているヘンタイなのだ。
はっきり言って、ヘンタイ痴女と、ヘンタイマゾッ娘。
生徒たちはそれを知らない。俺はそれを嫌という程思い知らされて、そのカオティックな世界に引きずり込まれようとしている段階。
いや、別に二人を嫌っているわけではない。その性癖に巻き込まれたくないだけで、ずっと彼女が欲しいと夢見ていた俺に構ってくれた学園で無二の女の子。感謝もある。
かてて加えて周囲の目というか、二人を無下にしたとあっては、まず確実にこの学園で排除されるだろうという計算もしてしまう。残念ながら。
今までの様な無視、ほったらかしではなくて、マジの虐め、迫害。
それは流石に勘弁してほしいという思いもあって、紗耶香とアイリを振り払えない。
しばらく周囲の注目を一身に浴びて廊下を進んでいたが、
「ちょっと。沙耶香。近すぎ!」
今まで黙っていたアイリが、我慢は限界だという調子で反対側の沙耶香をにらみつけてきた。
「なんか、胸とかわざと清一郎に押し付けてイヤラシイ。痴女の色仕掛けに惑わされちゃダメよ」
対して沙耶香は涼し気な表情。
「そういうアイリさんこそ、清一郎さんに、その『ない胸』を精一杯擦り付けている様に見えるのは気のせいでしょうか? 清一郎さんは『ある』方が好みなのは知っていますから」
「むきーーーーーーっ!!」
アイリが瞬時に発狂した。
「ちょっとだけ発育がいいからって調子に乗らないで! 女は中身よ、中身。そうでしょ、清一郎!」
こちらに火の粉が飛んできて、ヤバイと胸中で音にならない悲鳴を発する。
登校時は彩音ちゃんを加えた三人で、何気に和気あいあいとした雰囲気だったのだが、人数が減って一気に緊張感が増したようだ。
「ちょっと! どうなの、清一郎!」
「清一郎さんは、豊かな女性が好みですよね?」
アイリと沙耶香に両脇から責められる。
「いや……俺は……」
なんと答えてよいのかわからない。しどろもどろになる。
「女は発育じゃなくて、気持ち。それも慣れ親しんだ幼馴染がベスト!」
「分かり合っているのは私と清一郎さんも同様です。加えて女性は褥として殿方を喜ばせて、自分自身も殿方から満足を得るのが夫婦の在り方かと」
「誰と誰が夫婦だって?! それは私と清一郎よっ!」
二人して両側から目線で俺を圧してくる。
何か返答をしなくては治まらないという雰囲気になり……
なんと答えたらよいのかという混乱の中で……
「心と身体と……どっちも大事だと……思う……」
途切れ途切れに何とか口にする。
一瞬、互いをけん制するかのごとく目が細くなった二人。その顔から笑みが消えるが、どちらからともなくふぅとした吐息が聞こえた。
「確かに……身も心も大切よね。私も威張っている誰かさん程ゴージャスじゃないけど、女の子の身体としは合格点だと思っているから。味わえば、ちゃんとわかるから!」
「そうですね。心と身体が一緒になって分かり合えるという事もあるでしょう。早く清一郎さんと……その……ぽっ(はーと)」
アイリが自分の答えを出し、沙耶香が嬉し恥ずかしという様子で、薄っすらと染まっている頬に手を当てる。
俺を挟んで対峙している紗耶香とアイリに、胸中でため息を吐く。
俺たち三人は、その姿を見てどよめく二年二組に入ってゆくのであった。
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