第21話 ヘンタイ三人組との登校

 結論から言うと、いつもの穏やかな彩音ちゃんとの登校シーンには突入しなかった。


 紗耶香とアイリが制服姿で玄関前に立っていたからだ。


 聞いてみると、二人とも俺と一緒に登校しようと家まで迎えに来て鉢合わせしたという。


 追い散らす訳にもいかずに、そのまま四人で学園へという流れになった。


「こうして清一郎さんと一緒に登校するの、初めてで興奮します」


「なんでそこで興奮なのよ、あんたは。まあ私は三年ぶりだから懐かしいって感じかな?」


「紗耶香さんもアイリさんも、わざわざ朝迎えに来てくれるくらいに清ちゃんのこと、気に入ってくれているのね。清ちゃんが赤の他人なら普通に祝福するところなんだけれど、私は清ちゃんと苦楽を共にしてきた実姉なので紗耶香さんとアイリさんに清ちゃんを渡す訳にはいかないの。悩むわ~」


「そこは普通に祝福しなさいよ」


「そこは普通に祝福してください」


 国道沿いに進んで港南中央公園脇を通り、スロープを昇る。


 三人がワイのワイの姦しく、俺が会話に入る余地がない。


 この娘たち、俺を取り合っている様子なのに結構仲よかったりするんじゃないのか? と不思議に思ったりもする。


 いや、美少女三人に迫られて本来なら喜び勇んでこちらからもアタックをかけるところなのだが、この娘たちには問題があってそういう訳にもいかない。


 むーと唸りながら、押したり引いたりの問答をしている三人を眺める。


 この子たちがまともな女の子だったら、どんなにか幸せなんだろうと思いを馳せる。


 素敵な彼女を作るという俺の夢が現実のものとなるわけだが……紗耶香たちの実態を知っているノーマルな俺には現状では踏み込めない領域でもある。


「今日は、私、ちょっと着ているものに秘密があるんです」


 アイリが彩音ちゃんに突っかかっている(昔からアイリと彩音ちゃんは相性的に反発しあう傾向にある)隙に、ちゃっかりと俺の脇を掠め取っていた紗耶香が少し俯き加減で頬を赤らめる。


「今、清一郎さんとプレイしているみたいで……物凄くドキドキしています」


 俺を見てはにかむ面持ち。その表情は、恋する乙女そのものだ。


「いや、着ているものに秘密って、制服が新しいとか? なんでそれが、その、紗耶香の言うプレイとやらになるんだ?」


「ぽっ」


 頬に手を当てて恥じらう紗耶香。


「たぶん後でわかります。その時、清一郎さんも私と一緒に歩いているというプレイに興奮してください」


「なにちゃっかり清一郎と雰囲気作ってるのよ! 泥棒猫は彩音一人で十分でしょ」


 割り込んできたアイリと、それに応対する彩音ちゃん。


「私は泥棒猫でもいいんだけれど。もっと言うと、清ちゃんの正妻ではなくて愛人、二号さんで私は満足よ。アイリさんが第一婦人で私が第二、もしくは第三婦人とか」


「だから清一郎が実姉と不倫なんて認めるわけないでしょ。なんのカオスなのよ、それ。私、独占欲は強いから。清一郎は私専用のご主人様で、私が清一郎専用の下僕なんだから、そこんところはき違えないでよね」


「お前はどう見てもテンプレなサドっ娘ツンデレなのに、なんで変な性癖に目覚めてんだ。そこんところ、はき違えているぞ」


「いいのよ、それは。マウントとっている男子に逆襲されてめちゃくちゃにされるって、女として興奮しない?」


「俺に同意を求めるな!」


 坂道を上りおえて校門をくぐる。なんだかんだで結構会話が弾みつつ、高等部の昇降口前にまでやってきた。


「紗耶香さんとアイリさんがそうであるように、私も清ちゃんの事は監視しているわ。紗耶香さんもアイリさんも清ちゃんに手を出してもかまわないけれど、私は気にせずに清ちゃんと最後の関係にまで突き進むのでそのつもりでいてくれると助かるわ。最終的には清ちゃんと私の未来の為にも、血縁関係のある実の姉の私と夫婦関係を結ぶのが理想だと思っているの」


 全く完全に、冷静で穏やかで落ち着いた様子でそう言い切ってきた彩音ちゃんが、大学の校舎の方へと去ってゆく。


 高城紗耶香。桜羽アイリ。そして高坂彩音。この三人による三すくみの状況が出来上がりつつあるのだった。

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