第3章 俺、ヘンタイ三人組にどんどん追い詰められてゆく

第20話 彩音ちゃんとの朝食が不穏すぎる

 翌日の朝になった。


 いつもの通り彩音ちゃんやクロぼうと一緒に朝食をとっているが、彩音ちゃんに別段の変化は見られない。


 昨日の事。紗耶香やアイリの言動もそうだが、突発的に思える彩音ちゃんの行動が未だに信じられない。


 今までと何の変化もない落ち着いた柔らかな朝食時の彩音ちゃん。やっぱり何かの勘違いに違いないと思い起こした俺は、彩音ちゃんに対して切り出した。


「彩音ちゃん。俺の気のせいだと思うから聞いておきたいんだけど……」


「清ちゃん。私のこともう一度『看破』してみて」


 動揺の欠片もなく、彩音ちゃんが答えてきた。


「『看破』って……。なんで彩音ちゃんが……知ってるの……」


 俺は二の句が継げない。


「クロぼうさんに聞いたわ。私の事、『看破』してみて」


 彩音ちゃんに促されて、恋人候補に使う『看破』を彩音ちゃんに使うのはどうなのか? と躊躇われたが、唱えてみる。


 100の数字が彩音ちゃんの上に浮かんだ。


 でも……これって、家族としての愛情の数値じゃないのか?


 だとしたら、彩音ちゃんの俺に対する「好感度パラメータ―」が100でも別段の驚きはない。むしろ彩音ちゃんの愛情の深さを確認できる嬉しさが勝る。


「家族間の愛情じゃないよ。あくまで『恋人』関係としての気持ちの具合だよ」


 鮭をもぐもぐとついばんでいたクロぼうが、俺の考えを一言で打ち破る。


「ええ。私と清ちゃんは一緒にお風呂に入って……あと一歩で結ばれるところだったわ」


 恍惚とした、昨日を思い出しているという彩音ちゃんの表情。


 初めて見る彩音ちゃんの素顔に、俺は絶句した。


 彩音ちゃんが、隠していた自分の想いを吐露し始める。


「小さい頃から清ちゃんと二人暮らしで。幼いころから『模範的な子』として扱われ、私自身も『模範的な子』としてふるまっていたわ。それはいいんだけれど、同時に重圧と息苦しさを感じているのも事実だったの」


 彩音ちゃんの独白。穏やかな朝の食事の場面に、なんというか不穏? な雰囲気が漂い始める。


「最初は些細なことで、小学校高学年の時、一人でするイケナイことについて友達に聞いて。試してみて、忘我というか、圧迫されていた心の開放感を感じて私のセカイが変わったわ」

なにそれ?!


 って、彩音ちゃんが「一人でするイケナイこと」とか言ってるんだけど、俺、止めるとか遠慮してもらうとか。どうすればいいんだ……


 いや、まて。


 小学校高学年程の女の子なら普通の事で、俺だって中学に上がってからはしてるんだし、人間の三大欲求の一つとして健康な事だ、とも考えられる。


 でも長年一緒に暮らしてきた実の姉である彩音ちゃんが実の弟である俺に対してそれを口にしているのはちょっとどうなの? という思いもあるが、彩音ちゃんはそんな俺の混乱をよそに言葉を継いでくる。


「それから『イケナイ』こと、『禁忌』とされる行為にどんどん興味を持つようになったの。清ちゃんの事、一人の男性として見るようになったのもその時からよ。血のつながった者同士の交わり……背徳感があって素敵ね」


 彩音ちゃんが顔を蕩けさせて忘我の表情を見せていた。


「清ちゃんとの禁忌の契り、ぞくぞくするわ。すぐに清ちゃんの身も心も私だけのものにしてあげる。清ちゃんから私を求めてくるように、心を染め上げてあげたいの」


「ごめん! 彩音ちゃん! そのあたりで許して!」


 俺は、もはや悲鳴を上げることしかできなかった。


 想像もしていなかった、長年生活を共にしてきた実姉の真実。


 彩音ちゃんは俺の手に負える姉ではなかったのだ。


 クロぼうが食べ終わった鮭に満足顔を見せながら、俺の背後から奇襲をかけてきた。


「彩音ちゃん、確信犯だったんだ! 清一郎君とこのままずっと暮らして、女性として結ばれるのもいいよね! 僕としては、契約している清一郎君が『彼女』を作ってくれればノルマ達成だからね!」


「ええ!」


 彩音ちゃんが味方を得て、ニッコリと彩音ちゃんスマイルを見せる。


 ちょっとどうするんだ、これ!


 いやそれでも彩音ちゃんの事は嫌いにはならないし、感謝もなくならないんだけど。


 俺、実姉を『彼女』にするの?


 ダメだろ、それは倫理的に。


 でも相手は優しくて俺の事を想ってくれて甘やかせてくれる彩音ちゃんだよ?


 脳内で、理性と煩悩の二人の俺が火花を散らすが、彩音ちゃんを完全に拒否するという結論には至らない。


朝からかなり重いものを抱え込んで、それでも俺に対する優しさの振る舞いを変えない彩音ちゃんを無下には出来ない。


どうしたものか……と悩みながらも玄関で待ち合わせして、二人で学園に向かうために外へと出るのであった。

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