第19話 俺、彩音ちゃんに迫られる⑶

 俺は今、彩音ちゃんに身体を洗われている。


 気持ちいい。

 とても気持ちが良くて、ぼんやりと夢見心地。

 湯舟の蒸気に彩音ちゃんと二人包まれて、思考が溶けてゆく。


「清ちゃん、気持ちいい?」


 彩音ちゃんの甘い囁き。


 彩音ちゃんのタオルが、背中から足に降りてくる。

 それから彩音ちゃんが前に回って、俺の胸に手を当てる。彩音ちゃんの白くてすべすべの手が全身を洗い流してゆく。


「ああ……すごく……気持ちいい……」


「もっと……どんどん、『私の為』に気持ちよくなって」


 彩音ちゃんに大人の風俗みたいなイケナイことされているんだが、どんどん流されてゆく。


 何も考えられいほど心地いい。

 理性が溶かされてゆく……


「清ちゃん。私のこと『看破』してみて……」


『看破』か……


 俺は言われるがままに夢見心地で夢魔の魔法、『看破』を唱える。

 彩音ちゃんの姿の上にうすぼんやりと好感度100が浮かぶ。


「清ちゃん。私に対して素直になって。私の清ちゃん好感度は100だし、清ちゃんの私に対する好感度も100よ。私は、清ちゃんとイケナイこと……『契約のキス』がしたいの……」


 彩音ちゃんと『契約のキス』……


『契約のキス』か……


「清ちゃん。私を彼女にして……」


 そうだな……


 欲しいな、彼女……


 彩音ちゃんの顔が近づいてくる。


 綺麗な造り。うっすらと染まった頬。ピンク色の柔らかそうな唇。


 あの唇とキスすると彼女が出来るんだ……


 ぼんやりとそんなことを考える俺の前で彩音ちゃんが瞳を閉じる。


 彩音ちゃんの甘い息が俺の鼻から脳内に入り込んで脳髄をとろかせる。


 唇同士が触れる、という場面で……


 ばたんっ!


 浴室の扉が開く音がして、その冷水に俺は驚いてそちらを見る。


 息を切らして、でもそのまなこに怒りの炎を燃やしているアイリ。そしてこちらも荒い呼吸に心配の表情を浮かべた紗耶香。二人がドア口から飛び込んできたのだった。


「ちょっと! 彩音! どういうつもりなの、夕方私の邪魔しておきながら!」


「ダメです! 清一郎さんとの『契約のキス』は私がするんです!」


 俺は、冷や水を浴びせかけられて、すっかり正気に戻っていた。


 なんで紗耶香とアイリがここにくるの!

 つーか、俺、彩音ちゃんと何てことしようとしてたんだ!

 マジしっかりしろ、俺!


「私の事、観てたのかしら……」


 眼前に怒りのアイリと心配の紗耶香がいるのだが、背後の彩音ちゃんの温和な声は微動だにしていない。


「機会はまだまだ沢山あるわ。私と清ちゃんは一つ屋根の下で暮らしているのだから。アイリさんも紗耶香さんも清ちゃんに手出ししてもいいんだけど、『契約のキス』だけは簡単には出来ないことを理解しておいて」


 彩音ちゃんが俺の前に顔を置く。


「清ちゃん。今日は邪魔が入っちゃったけれど、こんど改めて姉弟でイケナイこと、しましょう。今度は最後まで身体で繋がる感じで」


 ニッコリと彩音ちゃんスマイル。

 そして二人を気にするそぶりもなく、浴室を後にして見えなくなった。


 まじかーーーーーー!!

 彩音ちゃん、何を考えているんだ!


 呆然と彩音ちゃんの後ろ姿を見つめるままの俺の前に、紗耶香とアイリの二人が未だに俺を見つめていた。


「裸の清一郎さん……興奮します。私の生まれたままの姿も……見て欲しいです……」


「清一郎の裸、小さいとき一緒にお風呂はいってたけど……昔と全然違って……ごくり……」


「紗耶香もアイリも出てってくれ!」


 俺は二人の邪魔に感謝をしながらも、言葉を浴びせかけた。


 二人共ねだるような面持ちを俺に向けてくる。


「清一郎さん。ここで……私と最後までしてしまいましょう」


「清一郎。そのけっこういい体で私の事、嬲って……じゅるっ……」


「ダメ。俺正気に戻ったから」


「「意地悪……」」


 二人が同時にハモって、拗ねた子供のように俺のいる風呂を後にするのであった。

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