第18話 俺、彩音ちゃんに迫られる⑵

「ちょっと、彩音ちゃん、何やってるの!!」


 俺は驚いて声を上げた。


 彩音ちゃんの顔が、乙女の羞恥にうっすらと染まっていた。


 初めて見る、実の姉の彩音ちゃんの柔肌。白く綺麗で、それでいて薄紅色に色づいた、手、脚。真っ白なバスタオルの下のとても大きな胸の膨らみ。その肢体を想像してしまって、慌てて頭を振った。


 なんてことを想像してしまっているんだ、俺!


 つーか、彩音ちゃん、なんでここに入ってきてるの!


 俺も凡俗だから、彩音ちゃんが実姉という理解ははっきりとあるんだが、その俺の視界に移っている裸体、いや裸体じゃなくてバスタオル姿だけど。に反応してしまうのはどうしようもなくて!


 ――と。


「ふふっ。清ちゃんもきちんと男の子なのね」


 彩音ちゃんが、俺の起立している部分を見てくすっと悪戯っぽく笑った。


 慌てて俺は丸見えになっていた部分をタオルで隠す。


「清ちゃん。今日色々あって疲れたでしょう。少し……いえとても恥ずかしいけど、清ちゃんの背中、流します」


 柔らかな笑みのその頬を羞恥色に染めて、俺の許可を求めてくる彩音ちゃん。


 ちょっと彩音ちゃん!

 なんて顔してるの!

 それ、ダメ!

 

 実姉で俺の母親代わりの彩音ちゃんが、何故か俺の本能を鷲掴みにして理性を溶かしにかかってきている。今までの彩音ちゃんとの信頼溢れる関係とか、血のつながりとかも。


 今彩音ちゃんが俺に対してしようとしていることは、『禁忌』に触れるんじゃないかという倫理観が俺を強く責め立てていた。


 いや、彩音ちゃんも変なつもりじゃないのはわかってる!

この上なくできた実姉の彩音ちゃんに限って、紗耶香やアイリみたいな変な部分は全くない。全然ないこと間違いない!


 でも、彩音ちゃんが突如突拍子もない行動に出ていることは事実で。


 俺の前に半裸で浴室に入ってきたのは間違いなくて。


 その彩音ちゃんが俺の不安疑念羞恥煩悩を取り払うが如くに言葉をささやいてくる。


「私の事はあまり気にしないで。今日は色々あったので、清ちゃんの疲れが少しでも癒されればと思って行動してみたわ」


 今まで小さいころから彩音ちゃんと暮らしてきたが、彩音ちゃんと男女関係的なアヤシイ雰囲気になった事は一度もない。


 彩音ちゃんとは二才しか離れてはいないのだが、母親代わりというか、安心できる血縁というか。


 そういった落ち着いた安定感が俺と彩音ちゃんの間にはあったのだ。


 それが!


 なぜか今、ガラガラと崩壊しかけている感じがするのは気のせいか?


 彩音ちゃんが俺の耳に囁いてくる。


「清ちゃんは……今日くらいは何も考えずに……私に身をゆだねて」


 彩音ちゃんの、俺の心の壁を溶かす甘い囁きだった。


 その響きに、俺の昂ぶっていた気持ちがすうーっと落ち着いてゆく。


「私は清ちゃんの疲れを癒してあげたいの」


「彩音……ちゃん……」


「ええ」


 ニッコリと微笑む彩音ちゃんに導かれるようにして俺は背中を向ける。


 彩音ちゃんが俺の背中を泡立て始める。


「今日くらいは、何も考えずに身を任せて」


 背中を流されながら、俺の心は彩音ちゃんの中に沈んでいった。

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