第13話 俺、アイリを狙うも返り討ちに合う⑶

 六時限目が終わって下校の時間になった時、俺は真っ先にアイリの席に行って声をかけた。


「アイリ、一緒に帰らないか?」


 じろりとした半眼だけが返ってきた。


「……なんの風の吹き回し?」


「いや、特別どうこういうことじゃないんだが、久しぶりにアイリと一緒に歩きたいと思って」


「ふーん」


 アイリは普通に思案している様子。俺に声をかけられて、まんざらでもないという顔付きをしている。


「いや正直言うと、今日の朝、高城さんが絡んできたときにアイリと久しぶりにまともに話せて嬉しかったんだ」


 アイリの反応。嬉し恥ずかしといった顔の染まり具合なのだが、その表情には「むっ」とした不満の色も見え隠れしていた。いや、これはホントの気持ちなんだが? なぜ不満顔?


「私に声をかけてきたのに他の女の名前出すの、気に入らないわね」


「他の女?」


「高なんとかさんとか口にしたじゃない。おまけにその高なんとかさんに迫られてデレデレしていた朝の顔付きを思い出しちゃったじゃない!」


 アイリは性根は優しい女の子なのだが、感情が先走る事が多々あって、その感情をコントロールすることが苦手だったりする。昔から。

 プライドというか自尊心も高いので、扱いが難しい。

 ただ、素直な部分も同時に持ち合わせていて、きちんと納得したことに関しては「ありがとう」「ごめんなさい」といえる器量の大きさも持ち合わせている女の子なのを俺は知っている。


 そのアイリに対してちょっとまずい流れだったので、軌道修正を図った。


「朝のホームルームでのアレは、高城さんが勝手に俺に絡んできただけで、本人の前では言わないが、俺は結構迷惑してるくらいなんだ」


「でも、昨日放課後一緒に廊下に出て行ったし、なんか男女のアレなこと、あったみたいじゃない」


「俺が教室から出て行った場面とか、よく見てるな」


「うるさいわね」


 ヒステリーまでは三歩ほどの間合いはあるが、俺にイジられてあからさまに気分が悪いという感じのアイリ。でもその頬の染まり具合は、こいつもきちんと女の子なんだと納得するだけの桃色具合ではある。


 どう応答するか考えて、アイリには回りくどい搦め手よりも直球の方が効果があると判断する。俺がアイリにアタックすることに関して、誤魔化しをしたくないというアイリに対する想いもあった。


「正直、コクられて、それから色々あって断った」


 アイリの目が驚きで見開かれた。

 アイリは混乱しているのか、少しの間合いがあって。


「コクられたって、高なんとかさんって学園の優等生アイドルよ。言っちゃあ悪いけど、清一郎に手を出してくる様な相手じゃないわよ」


「そうなんだが。ホントに色々あって、俺の事をお気に召していたらしい。俺は断ったが」


「そう……なんだ」


 アイリがほっと息をつく。


「俺も、二股かけるほど性悪な男じゃないつもりだ。だからこうしてアイリに声をかけているわけなんだが」


「そう。そう、ね」


 アイリの顔がほころんだ。


「いいわ。久しぶりに一緒に帰りましょ。長い事、中学以来一緒に下校したこともなかったけど、それも私的に色々限界かもって思っていたとこだし」


「何が限界なんだ?」


「うるさい。女の子には秘密の都合が色々あるの! ホントはずっと清一郎と一緒に帰りたかった……って、私に言わせてるんじゃないの!」


「お前が勝手に口にしたんだろ」


「うるさいうるさいうるさい! 清一郎は私の言うことを聞いて私に優しくして、最後には私を『虐めて』くれればいいの!」


「『虐める』? 俺を昔からいつも虐めていたのはお前のはずだったが? 俺がお前を『虐める』のか?」


「そうよ。あとでわかるわ。私ももう色々と限界だから」


「そうか。よくわからんが、お前がそういうならあとでわかるんだろう」


 アイリは、簡単な嘘はつかない女の子だ。日常会話で突発的な嘘をつくのは下手で、すぐばれる。だから俺もこういう返答になったわけだが、アイリの覚悟した嘘を見抜ける自信はない。


 ともあれ、なんともわかりやすいツンデレガール。成長途中の肢体と金髪ツインテ―ルがテンプレートすぎる感じでもある。


 アイリが鞄を持って席を立つ。


 会話に集中していたせいで気付かなかったが、かなり周囲の注目を浴びていた。


 こいつも高城さんと並ぶ学園二大美少女なのだと思い知らされながら、一緒にまだ騒がしい教室を後にするのであった。

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