第12話 俺、アイリを狙うも返り討ちに合う⑵

「で?」


 アイリが脇から再び入り込んできた。


「結局、ヤッたの? ヤッてないの?」


「ヤッたって、お前……」


 あまりにあまりの直接的な表現に、アイリを見やる。

 絶対零度を超えた凍結している面持ち。その中で目つきだけが氷の刃の様に鋭い。

 俺、こいつに刺されるんじゃないかっていう程の凍度だ。


「いや、何もしてない。マジ、ほんと」


「あら。私たち、あんなに分かり合ったじゃない」


「高城さんもいい加減にしてください。本当に嫌いになりますよ」


「……ごめんなさい。してません。というか、できませんでした」


 紗耶香は素直に謝ってきた。

 アイリの相貌がやや緩む。完全にではないが、とりあえずは納得したという様子。


「本当に、何も、『キス』もしてないのね?」


 念を押してくるアイリに対して俺も応答する。


「してない。しそうになったけど、断った」


 ふーとアイリが息をついた。


「……まあ、わかったわ。高城さんもいい加減な事を言って混乱させないで。ちょっと、柄にもなく興奮しちゃったじゃない」


「いや、それは柄だろ?」


 俺の余計な一言。


「何か言った?」


 アイリの睨み目に、俺は素直に押し黙った。


「清一郎も清一郎でしょ。変にいつもと違って女の子と仲良くしてるのが悪いんじゃない!」


「それはあまりにあまりの言動だろ。俺だって年頃だから、彼女の一人も欲しいんだよ。わかれよ。そこんとこ」


 むぅとアイリが唸って腕組みをした。


「そんなに……彼女……欲しかったんだ」


 アイリが思惑気に言葉にしてきた。


「そりゃ欲しいさ。何ならアイリが昔みたいに俺と仲良くしてくれるのならそれでも全く不満はない」


「なっ、何言ってるの!」


 アイリが混乱魔法を受けたがごとくの狼狽を見せた。


「私の事からかっても何もしてあげないんだからね! ほんとよ! ほんとにホントに昔親しかったからって何もしてあげないんだから!」


 分かりやすいツンデレセリフを放ってそっぽを向いたアイリだったが、その頬が薄く桜色に染まっていることを俺は見逃してはいなかったのだ。


 こいつ……

 まんざらでもないという面持ちをしていた。

 不思議とこの学園で無視されている俺に突っかかってくるアイリ。

 俺の事を本当に嫌いならば、接近してこないはずだ。


 人間とは、嫌いな相手には「嫌いだ」とは言わずに「無視」するものだということを、俺は今までの目つき顔つき悪いという人生経験から知っている。


 まさかのまさか、なのか?

 思って、アイリに対して『看破』を唱える。


 数値は――驚きの100!

 高城紗耶香と同じ、アタック成功確率最高値だった。


 紗耶香は痴女で問題ありだったが、その『看破』の値は信頼できる数値だとアタックしてみて今ではわかっている。


 紗耶香はその隠している性癖の為にちょっとお相手したくないが、幼馴染で勝手知ったるアイリなら……

 思いながら自分の席に戻ってしまったアイリを見て、昔の記憶を思い出して胸が熱くなった。


 アイリと彼氏彼女になれる可能性がある。それだけで十分だ。

 俺に対して言葉は厳しいアイリだが、俺はそんなアイリを別に嫌っているわけじゃない。いやむしろ、こんな学園で無視されている俺に構ってくれているアイリに感謝しているくらいなのだ。


 そのアイリと恋人同士の関係になれる、かもしれない。

 そう思うと自然と胸が熱くなるのを止められない。


 予鈴がなって担任が入ってくる。

 俺はアイリの後ろ姿を見つめながら、アイリにアタックする決意を固めたのだった。

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