海の藻屑となる前に

しゅがっぺ

プロローグ

 人間に憧れていた人魚の少女。

 毎日海から顔を出し、塀の向こうに広がる人間の街に行きたいと願っていた人魚の少女。

 ある日、人魚の少女は王子様と出会うのです。

 船の上でパーティーを楽しんでいた王子様は、突然の嵐に襲われ船から投げされてしまいます。

 海の底へ沈んでいく王子様を人魚姫は引っ張りあげ、陸地に運びます。

 声をかけ、体を揺すると目を覚ます王子様。

 その直前で、人魚の少女はつい海の中へ隠れてしまったのです。

 意識が朦朧としている王子様に声をかけたのは……隣の国のお姫様。

 王子様を助けたのは隣の国のお姫様、ということになってしまったのです。

 そんなことは露知らず、王子様に一目惚れした人魚の少女。

もう一度会いたいという気持ちが日に日に膨れあがり、海に住む魔女へこうお願いしました。

 「私に人間の足をちょうだい!」

 人魚の少女は美しい声と引き替えに、魔女から「人間の足が生える薬」を手に入れたのです。

 さっそく陸へ上がり薬を飲むと、すらっとした人間の足が生えました。

 まだ歩き慣れずよたつく人魚の少女に声をかけたのは王子様。

 人魚の少女はしばらくお城でお世話になることに。

 夢にまで見た人間の生活に心躍らせる人魚の少女でしたが、ある日知ってしまったのです。

 王子様の結婚相手は隣の国のお姫様ということを…。

 悲しみとショックで城を飛び出した人魚の少女は海辺でぼーっと海を眺めていました。

 そんな人魚の少女を心配して仲間が海から声をかけてくれました。

 「あなたはこのままだと海の藻屑になってしまう。王子様と結ばれないのなら、これで殺しなさい」

 そっと置かれたのは月明かりに照らされ銀色に光るナイフ。

 仲間達はナイフを置くと海の底へ帰っていきました。

 城へ戻ると人魚の少女は王子様に呼ばれました。

 婚約者として紹介された隣の国のお姫様はとても美しく、王子様とお似合いでした。

 王子様と結ばれるのは無理だと悟った人魚の少女。

 真夜中、人魚の少女は仲間たちから渡されたナイフを持って王子様の寝室へ向かいます。

 小さな寝息を立てすやすやと眠る王子様を見ると、どうしても殺すことは出来ません。

 人魚の少女は再び城を抜け出し、海へ身を投げました。

 海の藻屑となりながら、人魚の少女は最期まで王子様のことを想っていたのです。

 ――ただの、おとぎ話だと想っていたのに……。

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