第2話 折茂家
折茂家は少々複雑な家庭事情を有するが、これくらいの事情はみんなどの家庭にもあるものだと芽生は思っていた。
芽生の両親が離婚したのは今から十年以上も前の話で、父娘二人暮らしをしていた。そんなある日、父親が再婚相手にと連れてきたなんともきれいな女性は、二人のとんでもなくかわいい息子二人を連れていた。
新しい母親にそっくりなきれいな顔をした兄の海斗と弟の陸。そんな二人の弟に、芽生は家族が増えたことを大いに喜んだ。
その母親が、交通事故に巻き込まれて植物状態になったのは、五年ほど前のことで、そして意識が戻らないままに天国へと旅立ったのは、三年前だ。その頃から、母親代わりにならなくてはと、家族の食事担当をする芽生の生活が始まった。
幸いにも、血のつながらない弟二人は物分かりが良く、芽生が大変な時には手伝いをすすんでやってくれるので助かっていた。
そんな芽生が会社を定時上がりするのは、家族のご飯を作るのと、内緒で働いている居酒屋のダブルワークがあるからだった。
いずれは自分だけのカフェを開きたいと思っている芽生は、開業資金の足しになるのであれば、一着の下着にかけるお金がもったいないと思ってしまうほどの貧乏性になっていた。
アルバイト先の居酒屋は勤めている会社にもほど近い場所にある。会社があるのは川向こう町で、芽生たちが暮らしているバイト先がある地域はこちらの川側の町だった。
川沿いを歩いて行くと、その川の向こうには、キラキラとしたオフィスビル群が立ち並ぶ。対してこちらは閑静な住宅地で、そのオフィスビルで働く人々のベッドタウンとなっていた。
帰宅してから夕食を家族とともに食べ、すぐに夜のバイトの準備をして芽生は家を出た。
美しく恐ろしいオフィスビルを見つめて歩きながら、今日のまかないは何かなと芽生はのんきなことを考えながら歩いていた。
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