魔女リリア

@rummio

プロローグ


 とある町の近くにある、森の中には、小さな家が建っている。その家には、魔女と魔女の使い魔が住んでいた。いつからそこにいるのか、町の誰も知らない。噂では、町が出来る前からいたとか、いや国が建国される前からだとか、色々言われている。


 なんていったって、魔女は歳をとらないから、くわしいことは、誰も知らなかった。








「ニャ~」




 黒猫が、主人を呼ぶようにひと鳴きすると、主人が寝ているベッドに跳び降りた。




『リリア様、起きて下さい。もう8時です。』


「…う~ん」


『リリア様っ、起きて下さいっ。』


「後もう少し~」


『はいはい。さぁ起きて下さい!』


「う~~ん」




 黒猫が仕える主人は、非常に朝に弱いので、このやり取りはいつものことだ。




「もっと寝たいよ~」


『今日は午前からお客さんが来るって、視て言ったのは、リリア様でしょう。』


「そうなんだけど~」




 とても眠そうにしながら、もぞもぞとベッドから起き出した女性は、顔を洗いに洗面所へいった。




 女性は、鏡の前にある、からの桶に指をさし、水を出現させると、桶の水で顔を洗い出した。




 洗い終わり、顔を拭いて、女性は鏡を見た。


 鏡には、綺麗な黒い瞳とピンクベージュでウェーブの長い髪をもった、美しい女性が映っていた。




 女性の名はリリア。若く20代に見えるが、約700年を生きている、れっきとした魔女だ。




 リリアが部屋に戻ると、バターとホットミルクの美味しい匂いが漂っていた。




「今日はフレンチトーストね。嬉しいわ。」


『そろそろ食べたくなる頃だと思いましたから。ミルクは砂糖たっぷりです。』


「ありがとう、ティティー」




 ティティーと呼ばれたのは、リリアを起こしていた黒猫だ。ティティーは魔女リリアの使い魔である。




 二人の間で、朝食を作るのはティティーの分担となっていた。もちろん魔法で。




「ん~♪、美味しいわ~」


『ありがとうございます。』




 ティティーは嬉しそうにしっぽを揺らした。




『今日はどなたがいらっしゃるんですか?』


「今日は午前にグレン、午後にアンナが来るわ。」


『今日は多いですね。』


「そうね~、でもどっちも早く終わりそうよ。」


『早く終わらなかったことなんて、ほとんどないですもんね。』




 そんな話をしながら朝食を終えると、二人はそれぞれ準備を整えていった。




 リリアは魔女になってから、どんなことでも透視できる目をもった。


 皆の悩みや相談事を、その目を使って助言するのが、いつの間にか日課になっていた。










 コンコンコン




「はい、どうぞ。」




 女性の柔らかい声が聞こえ、ドアが一人でに開いた。




「おじゃまするよ。」




 そう言いながら入って来たのは、初老の男性だ。白髪のまざった黒髪で、優しい緑の瞳をしている。




「久しぶりね、グレン。待っていたわ。」




 リリアは机をはさんだ向こう側の椅子に座って、グレンを見ていた。




「どうぞ座ってちょうだい。」




と、手で椅子をすすめた。すると椅子は、グレンが座りやすいように自分から後ろに下がってくれた。


 グレンが座ると、リリアは机をトントンと指でたたいた。気づくと、机にはティーセットが出されていて、グレンが好みの香りが広がった。




「まずは一口どうぞ。」




 リリアに勧められるまま、コーヒーを一口飲んだ。


 話す前に出されたお茶を一口飲むのがここでの決まりだ。








「実は、ここ最近夢を見るんだ。亡くなった妻が出て来て、私に何かを伝えようとしているんだが、声が聞こえなくてね。分からないまま、夢から覚めてしまうんだ。この3日間、同じ夢を見ているから気になってね。」




 リリアは瞳をグレンに向け、しっかり話を聞き終えてから、口を開いた。




「ルシアは確かに、グレンに大事なことを伝えようとしているわ。」




 ルシアというのは、グレンの妻の名だ。




「グレン、あなたは、娘のアリシアに会いに行きなさい。私があなたに授ける助言はそれだけよ。」


 グレンは目を丸くした。


「アリシアに会いに?…」


「色々思う所があるだろうけど、いつまでもこのままではいけないわ。それはあなたも分かっているはず。…ルシアが伝えたいことは、アリシアに会ったら分かるわ。」




 グレンは黙り込み、気を落ち着かせるようにコーヒーを飲んだ。それを見てから、リリアも自分の所にあるカフェオレを飲んだ。




 少ししてから、グレンは口を開いた。


「娘に何を話したらいい?」


「グレンが思っていることを、そのまま言えばいいのよ。夢のことも含めて、素直にね。」


「…そうだね。」


 そう言ったグレンの顔は、とてもスッキリしていた。








 グレンが帰った後、ずっとリリアの膝の上にいたティティーが、机の上に跳び乗った。ティーセットは、リリアがすでに指先ひとつで片付けている。




『それで、今回の件はいったいどういうことだったんですか?』


「まず、アリシアはね、1年程前に駆け落ち同然で家を出ていたのよ。ルシアが生きていれば、父子すれ違わずに上手くいったんだろうけど、父親と娘だと、色々難しかったようね。」




リリアは視た通りに、過去にあったことを詳しく話し出した。




「そのアリシアが先日身重になったのよ。このまま、父親と絶交状態じゃ駄目だと、ルシアが思って、ついにグレンの夢に出てきたってこと。」


『まさしく、夢のお告げだった訳ですね。』


「そういうこと。夢に出るほど、ルシアもグレンもお互いを想い合っていたのよ。」










「さて、次まで時間があるから、アンナが好きなケーキを作るわ。手作りでね。」


『魔法を使わずに作るのも、違った美味しさがありますからね。』




 午後に訪れるアンナの悩みも、リリアの目にかかれば、すぐに解決してしまうことだろう。




 キッチンから美味しい匂いが漂ってきた。


 楽しそうに料理をしているリリアの背を見ながら、ティティーはケーキが出来るのを、ワクワクしながら待った。

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