仮面劇 « masquerade »




午前の授業は特に何もなく終わった。


移動教室で5~6人の荷物を運ばされたり、授業中に時折バカとか書いた変なメモが回されてきたりしたけれど、特に変わったことはなかった。


昼食の時間、弁当は教室の中で食べるように言われているため、クラスの他の連中は教室内でそれぞれの仲良しグループごとで机を寄せあって固まって弁当を食べる。


そして僕はいつも龍ケ崎たちと弁当を食べる。

でもそれは決して彼らと仲良しだとか話したいからとかそういう理由じゃないから、誤解しないで。


いつものように弁当を持って龍ケ崎たちの席へ赴こうとしたが、今日は気まぐれにお茶を飲んでから行くことにする。

席に座ったままカバンから取り出した水筒を口にあて傾けた。


するとその時、後ろから誰かに思い切り肩を引かれた。


僕は思わず勢いよく水筒を傾け、中身を自分の制服にぶっかける。


一瞬の思考停止を経て、被害状況を確認したが、ブレザー、カッターシャツ、ズボン、全滅だ。


呆然としていると目の前に犯人の顔が現れた。


「おっせえよー、ってあれ?死んだ?」

ずぶぬれになってる僕を眺めまわして龍ケ崎が笑いながら言う。

僕は思わず本気で彼を睨みつけた。


龍ケ崎は一瞬視線を揺るがしたが、すぐにいつもの顔に戻る。


「よっ!お茶も滴るいい男っ!!」

僕に注目が集まる中、誰かが囃し立てるように口に手を添えて叫ぶ。


すると冷やかすように龍ケ崎も含めた他の連中はそれに呼応し、朝はひそひそだった笑い声も昼になれば大爆笑に変わる。


それに対して僕はいつも心の中でツッコミを入れる、お前らは遠吠えするオオカミか。


でもそれと同時に、この余裕があるうちは僕はまだ死なないななんて思ったりする。

僕は無言で立ち上がり、騒がしい教室を出て濡れた制服で保健室へ向かう。


さすがにびしょびしょで午後の授業を受けたくはない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る