第13話 彼女を救う手立て

「君が何であそこまで追い詰められたのか教えてほしい、力になれるのかも分からない、それで罪滅ぼしがしたいわけじゃない。だけど良かったら教えてほしい。」

一ノ瀬はこちらをじっと見つめてそう言った。

日向の中にはまだ一ノ瀬に対する不信感は確かに残っており、そう簡単に信じても良いのかという疑問もぬぐい切れていなかったがこれから先一人で抱え込んでいても仕方ないこともまた事実であった。


ここは素直に助けてもらおう、必要最低限の事だけならひどいことにはならない筈だ。そう思い日向は言葉を慎重に選ぶように叶の事を一ノ瀬に話した。




「そっか、あの時あった子が今そんな大変なことになってるなんて……」

全てを話し終えた後、一ノ瀬はまるで叶が自分の友人でもあるかのように言った。

「でも、彼女を助けるためだって言ってもやっぱり自殺は良くないよ。それに一回その子に止められたんでしょ?なら、それで命を救われてもその子は多分悲しむと思うな。」


「それは分かってた、分かってたけどそれ以外に方法が無かったんだから仕方がないだろ。」

一ノ瀬に諭されてバツが悪かった日向は言い訳する子供みたいにそう答えた。


「臓器提供以外に何か手段は無いの?」

「一応手術で治った例もある。ただ先端医療で保険が下りないのと国内での成功例にも乏しいらしい。」

一ノ瀬の質問に知っている限りで答えた。何も日向も調べることなしに自殺しようとしていたのではない。

自殺は自分なりに調べ、考えた結果の行動であった。


「大体の値段は?」

一ノ瀬は続けて質問した。

「彼女の場合となるとまた違ってくるだろうけど、ただ手術の場合約五千万程だってネットには書いてあった。」


五千万円、大人であっても払うのが難しい金額だ。増してや高校生がそんな大金を全部払います。だなんて言える訳がなかった。

なので日向はお金で解決することを諦めた。

しかし目の前の彼女は何か考えがあるようだ。その証拠に一ノ瀬はさっきから必死にスマホをスクロールさせている。


「ねぇ、これどうかな?」

少し経った後、そう言って一ノ瀬はスマホの画面をこちらに向けてきた。

「これって……イラストコンテスト?」

「そうだよ?あの子絵が好きなんでしょ?」

「どうしてそれを?」

「だって君と会ったあの時、たくさん絵の具とか持ってたじゃん。」

そういえば一ノ瀬と会ったのは二人で画材屋に言った帰り道だった。


「でも、これ最優秀賞でも百万だろ?これ以外にもコンクールに送るとしても到底五千万には届かないよ。」

「分かってるよ、このコンクールは知名度を上げるための踏み台。」

「踏み台って……?」

一ノ瀬はこちらに向けていたスマホを自分の方に戻してまたスクロールさせた。


「菊池君はさ、クラウドファンディングって聞いたことある?」

「まぁ、耳にしたことくらいは。」

「あれってさ、割と高校生でもやってる人多いんだよね。でさ、ほらこれ見て?」

向けられたスマホの画面にはさっきまで話していたクラウドファンディングのサイトが開かれていた。


「寄付で五歳の子供に手術を……?」

「小さな子供に寄付で、クラウドファンディングで助かった命」と大きく描かれた見出しの下には手術を受けた子供であろう写真と本文が並んでいる。


「これ、主催者はこの子の親御さんなんだけどね、同じこと、あの子にもしてあげれるんだと思うんだ。」

「じゃあさっきの踏み台っていうのは。」

「この企画の知名度を上げるためだね、まずは優勝しなきゃ意味ないけどね。」


「どう?悪い案ではないと思うんだけど?」

確かに一ノ瀬の提案は色々と鬼門はあったものの現実味はあった。

しかし、何よりも難しい点が一つ残っていた。


「確かにいい案だけど彼女がこれを飲んでくれるかなんだよな。」

日向たちがどれだけ考えても彼女がそれを拒否したなら大人しく従うのが彼女のためである。強要してしまえばそれはもはや本末転倒だ。


「そうだね、でも菊池君がそれだけ考えた思いはきっとあの子にも届くと思うよ。」

彼女はそう言って水を一口飲んだ。ふと時計を見ると入ってきたときからすでに二時間も経過していた。

「あ、そろそろ出た方が良いかな、さすがに高校生二人が長居しちゃうと怪しまれちゃうしね。」

彼女もそれに気づいたようで二人はファミレスを後にした。会計を済ませ、外に出たとき生暖かい秋の風を感じた。

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