027 因縁の邂逅

 ミレーナと別れたカーレルは、合流地点である前線の一角へと到着する。


 何人ものアルギュロス隊とすれ違ったが、今まで向けられていた悪意は半減。代わりに向けられるのは、謝意だ。中には昨日助けたメンバーもいたらしく、恭しく敬礼されることすらあった。


「なるほど、ここまで印象が変わるものなのか」


 行政府の行った情報拡散を茶化したカーレルだったが、実際の効果は劇的だ。対して意図的に情報操作を行なってきたゲーリックは今身動きの取れない状況にある。案外、行政府の思惑はすんなり通るのかもしれない。


「遅いぞ、カーレル」


 前線に着くと、先に到着していたランディがジト目を向けてきた。フェルトやレイチェルもその場におり、どうやらカーレルが最後だったらしい。


「悪い。知り合いから情報収集してたら遅くなった」

「情報収集、ですか?」


 首を傾げるレイチェルへと、一部を伏せてミレーナから聞いた話を共有する。


「……つまり行政府が情報を流したことで、私たちに対する認識が改められつつある、ということですね」

「要するに掌返し、ってことだろ。……認められるんだったら悪い気はしないけどな」

「ランディは単純ね。でも、どうして私たちに融和するような政策を取ったんですか? 接点なんて今までなかったのに。カーレルさんの働きかけとか?」

「案外昨日の活躍を聞きつけて俺たちが本当は頼りになる、って判断しただけかもな」


 考え込むレイチェルたちを他所に、カーレルとフェルトは視線を合わせて肩を竦める。恐らくふたりは、まだ彼女の正体に気付いていないのだ。


「今は目の前に集中だ。余計なこと考えてて怪我でもしたらにどやされるぞ」

「そう、ね。先生にはまだまだたくさんのことを教えてもらわないとね」

「だな」


 決意を表明するふたりの隣で、フェルトが表情を殊更真剣なものとし、


「こちらからも共有する情報があります。先程オズワルド副長から伺ったのですが、敵の群れの中に、以前カーレルさんと戦った相手……駆竜型のフォボスがいたそうです」

「それは――」


 カーレルが言い放った直後、前線で大爆発が巻き起こり、皆が一斉に振り返る。粉塵が立ち上り、衝撃と周囲のどよめきが伝搬。発生源と思しき戦線の最前線には――が立ち上っていた。


「な、何だっ⁉」

「何があったのっ⁉」


 戦慄くランディとレイチェルの横、カーレルがぎりっと奥歯を噛みしめ、


「……あの焔は、覚えがあるな。噂をすれば早速か」

「……カーレルさん」


 固く拳を握りしめていたカーレルの手に、フェルトの手が優しく添えられた。先走りかけた感情を鎮火するため深呼吸をし、しかし眼差しは現場を睨みつけ、


「あれは多分、オレが相打ちになった敵だ」


 この会敵は必然なのかもしれない、とカーレルは眉を寄せる。


 街にはフォボスが侵攻してきていおり、カーレルと対峙した敵もその例に外れない。実に嫌なタイミングではあるが、これも一種の因縁というものだろう。


「……その、大丈夫なのか? つまりあんたは前あいつに……」


 ふと横を見やると、こちらを気遣ってくれるランディ、レイチェルの視線が合う。


「確かにオレはあいつにやられかけた。フェルトがいなかったら死んでいただろうな」


 しかし言葉とは裏腹に、カーレルは獰猛な笑みを浮かべていた。その心境はまるで、待ち望んだ好敵手を迎え入れるかのようなものだ。


「あれはオレが、自分を過信して無茶をした結果だ。けど今のオレは前より強くなったし――それに何より、お前たちがいるだろう? なら、負ける要素なんて何もないさ」


 出会った当初こそは、敵意の感情を向けられた。だが共に過ごすうちに互いの考えを、想いを、志を理解し合い。そうして、自然と近づいていった絆がここにはある。


 カーレルにとって、十分に背中を任せうる存在。それが、今の仲間たちヒュドラルギュロスだ。


「……ああ、そうだな。俺たちもアンタを全力でバックアップする」

「そう、ですね。確かに負ける要素なんてないですよ」

「行きましょうカーレルさん。わたしもできる限りの助力をします」

「ああ。頼んだぞ、皆」


 カーレルは頼れる仲間たちと共に、戦場へと足を進めるのだった。

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