番外編4話 レアイベントとか聞いてない
序盤の展開が作戦通りに進んで上手くいってると思ったのがいけなかったんだわ!
左の頭はエステルのラピッドアローとヴォルフのファイアボールによって、頭部としての機能を果たさなくなるまで容赦なく、潰された。
ハリネズミよろしく矢がたくさん刺さって、黒焦げにされた頭を見るとかなりのグロさでちょっとかわいそうな気もするんだけど。
そうなのだ。
そこまではホントに作戦通りに進んでた。
アイス・ブレスが厄介で受けてしまうとデバフがかかって、動作が鈍くなり、最悪の場合、凍結による完全停止もありえる。
そこで左の頭を最優先目標として潰すというのが経験者二人による提案だった。
だから、序盤のうちにパーティーの最大火力をもって、左の頭を潰すを実践したんだけど。
うまくいってたのに……。
異変が起きたのは右の頭に残っていたもう一本の角をフランの
二本の角を両方とも折られ、既に半壊に近いほどのダメージを負った右の頭が動いた。
既に力を失い、ダランとだらしなく、下がっているだけになっていた左の頭に食いついたのだ。
追い詰められて、おかしくなったのかと思ったら、違うらしい。
明らかに何らかの意図があって、自分で自分の身体を食べてるんじゃない!?
「えっ!? ええ、何、あれ、何なの?」
「皆、様子がおかしい。下がって」
ランスが防御を高めるスキルを展開しながら、盾を前面に構える。
それに合わせて、彼の真後ろについて、少しでも手助けになるようにと支援スキルを重ね掛けした。
「エステル、あんなの見たことある?」
「これはもしかして、レアイベントに展開してしまったのかしら? そういうヴォルフは見たことあったの?」
「ないから、聞いてみたんだけどね」
「そうだとは思ったわ」
後ろの経験者二人が喋っている不穏な内容に背中を冷や汗が流れる。
レアイベントって、何なの?
そういうのって、難易度が高くなるんじゃないの。
「リナ、大丈夫なの? しっかりしてくれないと困るわ」
いつの間にやら、隣に来ていたフランの言葉で現実に引き戻された。
暴走するんじゃないかと心配したりして、ごめんっと心の中で謝罪しておく。
面と向かって謝るとあたしとミレイの相性は最悪に近い。
タケルは猫がじゃれあっているみたいと言っていた。
さすがに取っ組み合いの喧嘩にはならないけど、そういうことで心の中で謝罪するだけにしておこう。
暴走しないでって口に出してないから、セーフだし。
「あ、ありがとう、フラン」
「あなたがこのパーティーの司令塔なの。しっかり、戦況を判断しないと駄目だわ」
「そうね……確かにそうだわ」
あたしのクラスはプリンセス。
近接戦をこなそうにも格闘戦のエキスパートであるフランに遠く及ばない。
だからって、遠距離戦をこなすのも無理な話。
エステルっていう遠距離のプロフェッショナルがいるんだから。
魔法はヴォルフがいるから、あたしが攻撃魔法を撃っても魔力の無駄遣いにしかならない。
じゃあ、何をすればいいのかっていうと最大の長所である支援スキルを切らすことなく、メンバーに掛けられる立ち位置を維持しなきゃいけない。
そうなると全体の状況を把握して、メンバーに的確な指示を出すってことになる訳で。
つまり、司令塔なのよ。
「ヴォルフ、
「分かった」
「了解!」
あたしも支援スキルの掛け直しをしておく。
これで良く分からない動きを始めたドラゴンへの牽制にはなるはず……なんだけど。
どう出てくるのか、分からないのが怖いのよね。
「な、なんだ、アレ?」
「首が一つになったようですけど」
そんなあたしたちを嘲笑うかのようにドラゴンの身体が変化していく。
右の頭によって、左の頭と首が完全に喰らい尽くされた瞬間、ドラゴンの身体が黄金色の光を帯び、輝き始め、その姿が徐々に違う形態へと変わっていったのだ。
牽制の為に撃たれた
「何か、大きくなってない?」
「気のせいか、一回りは大きくなっていますわ」
「私の
「変身している時は無敵なんて、ヒーローじゃあるまいし、笑わせてくれるね」
黒いローブを着ているヴォルフがそう言うと悪役にしか見えないんだけどね。
言いたいことは分かるから、ツッコまないよ?
無効化するのはさすがにインチキだと思うし。
二つ首だったドラゴンがあたしたちの攻撃で片方の首を失った。
ところがそれで弱るどころか、進化しちゃったぽい。
頭と首は一つになったけど、身体が一回り大きくなって、より凶悪な感じになったんだろう。
こっからが本番ってことなのかな。
そんなことを考えてたら、ドラゴンが天に向かって、咆哮する。
空気と大地が震えるような凄まじい咆哮にあたしたちも気圧されて、身動き一つとれないでいた。
「あっ……そういうこと!?」
ドラゴンと対峙して、ランスを最前列に置いて、その後ろにフランとあたし。
少し離れた位置で後列として、ヴォルフとエステルがいた。
咆哮に呼応して地面から、白骨の兵士の一団――スケルトンが出現し、後列の二人を取り囲もうとしていたのだ。
「まずいわ。うーん、フラン。ランスを援護してあげて。あたしの代わりに」
「リナ!? どういうことなの? 代わりって……何をする気?」
「あたしはあの二人を助けてくるっ!」
これはあたしのミスだ。
後列が狙われることも考えておかなきゃいけなかったんだもん。
だから、絶対にあたしが助けなきゃ!
支援スキルに使う魔力を通常の三倍以上に上げる。
その瞬間、頭に鋭い痛みが走り、筋肉や内臓にも針を刺されたように感じる。
痛くて、苦しい……だけど、それを無視して、無理に支援スキルをさらに重ねて掛けながら、駆ける。
一刻でも早く、二人の元へと急ぐ為に……。
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