番外編3話 二つ首のドラゴン
そして、あたしたちがイベントに挑む時がついにやってきたのだ。
今回のイベントが行われる専用バトルフィールドは休火山の火口という設定だ。
この運営のイベントは専用のフィールドを設けて、イベントバトルを行う手法が好きらしい。
シーズンイベントでハロウィンにカボチャのお化けと戦ったり、クリスマスにサンタさんの服を着た雪だるまのお化けと戦ったりと毎回、趣向を凝らした催しって、感じだ。
火口という設定のせいか、とにかく暑い。
あたしはプリンセスというクラスの制約上、チュニックとパンツの上から、付与のかかったローブを着込み、その上にさらに革の胸当てと肩当を装備したいわゆる軽装備。
この軽装備ですら、何もしてないのに暑くてかなわない。
ランスみたいにガチガチのフルアーマーを着込んでいたら、どれくらい辛いのか、想像出来ないレベルだわ。
サウナに入りながら、フルマラソンをする。
実際にはそんなこと出来ないけど、それくらい暑いんじゃないっていう想像してみた。
ホント、暑い。
「来るよ。皆、気を付けて」
ランスが皆を鼓舞するように上げた声に応えるかのようにそれは出現した。
あたしたちの前に広がる大地に蜘蛛の巣のように地割れが広がっていき、噴出する溶岩とともに現れたのは溶岩を思わせる赤黒い鱗に覆われた四足型のドラゴンだ。
ドラゴンと言っても翼がないから、上位ではないので大したことがない! って、訳ではないみたい。
巨大な身体を支える屈強な四肢。
一振りで巨大な岩を粉々にする破壊力を秘めた長大な尾。
それだけでも十分な脅威だし、このドラゴン……頭が二つの双頭竜なんだから。
ダブル・ドラゴンなの? ツイン・ドラゴンなの?
どっちもネーミングとしてはいまいちかな?
頭がたくさんあると強くなるとか、ナンセンスだと思うのよ。
あたしたちが挑むのは初級なんだけど、今回のイベントは初級、中級、上級、超級の四種類の難易度が設定されてるのよね。
まさかとは思うんだけど……中級は頭が三つ、上級は四つとか、言うんじゃないでしょうね。
ま、まぁ、いいわ。
頭の数は問題じゃないもん。
えっと初級は二十レベル相当ボスで二十レベルがフルパーティーで挑んでどうにか、倒せるような設定がされているらしい。
らしい、っていうのはあたしは経験がないから、全く分からない。
野良のパーティーで既に経験済みのヴォルフとエステルの二人から、聞いた話なのだ。
あたしたちのパーティーはヴォルフとエステルが三十レベル。
ランスが二十七レベルであたしがこの前、どうにか二十レベルに上がったばかり。
フランはあたしより、後からゲーム始めたのにもう十八レベルになっている。
レベルだけで考えるとあたしたちでも討伐可能なはずだ。
「よしっ! ヘイトコントロールは任せて。誰も死なせはしない」
ランスが最前列でパーティーを守るように盾を構えるのを合図にヴォルフが支援魔法の詠唱に入る。
あたしも遅れないように専用の支援スキルを発動させる。
「我は願う、精霊の守り!
「我
ヴォルフが唱えたエネルギーシールドは炎や雷撃などからのダメージを軽減してくれる支援魔法の一つだ。
彼はこのドラゴン戦の経験者だけにブレス攻撃が危険ということを知っているんだと思う。
だから、防御の支援なのだ。
一方のあたしが掛けた支援スキルは防御ではなく、攻撃向き。
あたしを中心に半径十五メートル以内のメンバーの能力を三割上昇させる効果がある。
狭い範囲内で戦う限り、いんちきなくらいにドーピングが出来ちゃう。
魔法も武術も上級まで取得出来ない中途半端な感じが否めないプリンセスだけど、こういう支援スキルを専用で持っているのだ。
「右の頭がファイア・ブレス。左の頭がアイス・ブレスを吐いてきますわ」
支援効果が掛かったのを確認するや否や第一射の矢を放ち、左側の頭の右目を貫いたエステルが叫ぶ。
「了解しましたわ。では私は右側をいただきます」
フランが地面を勢いよく蹴って、空高く跳躍した。
あの姿を見ると同じ人間とは思えない。
ていうか、これゲームだからってのもあるけど、ありえないくらい高さまで跳ぶのんだから。
今まさにファイア・ブレスを吐かんと大きく口を開けて、牙で発火しようとしていた顔面目掛け、高いところから重力を利用した重い蹴りが襲った。
不意の攻撃にファイア・ブレスを吐けず、おまけに角を一本折られたドラゴンはかなり、お怒りの模様。
「ごめんあそばせ。もう一本もいただいて、よろしい?」
うーん、フランはSね。
間違いないと思う。
あたしやランスへの態度もいつも上から目線だしねっ。
分かってるのよ、彼女が素直じゃない性格っていうのはよーく、分かってる。
あたし自身がそうだったから、余計にね。
彼女がホントは優しくて、誰よりも仲間のことを考えることも分かってる。
ただ、態度が悪いだけなんだよねっ。
「ヴォルフも攻撃に入る?」
「リナも入るよね?」
「もちろん!」
レイピアを抜き、フランを援護する為に右の前腕を狙って、駆け出した。
あたしはその間、支援スキルに掛けている力をさらに増加させている。
上げれば、上げるほど係数が上がっていくので最大五割まで能力上昇効果が見込めるのだ。
その分、あたしの身体に架かる負担も大きくなって、下手すると血を吐く。
だから、無理はランスに止められてるんだけど、今回はそんなこと言ってる余裕ないと思うんだよ?
ヴォルフが左の頭に目がけて、ファイアボールの詠唱を始めているのを見て、序盤の戦いは作戦通りにいってるよね?
今日は暴走しないでね、足利さん。
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