番外編2話 作戦会議は重要
「私が来たからには何も心配することはございません。安心してくださいね」
ミレイことフランソワーズのこの自信満々な態度に頭が痛くなってくるのは彼女が全く、回復をしないで殴りに行くヒーラーだからだ。
殴りヒーラーは攻撃をしつつ、回復もこなすヒーラーらしい。
エステルが教えてくれたのはそういう説明だった。
でも、フランソワーズは違う。
殴るだけ。
攻撃しかしない。
回復魔法を使うところを見たことがないのだ。
そして、今日はマリーナさんという回復のエキスパートがいない。
だからって、フランが回復魔法を使うと思う?
答えは否としか、言えないわ。
あたしは正直、ゲームでそんなに遊んでいなかったから、そういう難しいテクニック的なものに詳しくない。
だけど、タケルと二人で遊んでいる時にそういうテクニックを色々と教えてもらった。
ランスのクラスはパラディン。
タンクと呼ばれる敵の注目を引き付けて、味方を守る役目を受け持っていること、戦闘中の彼が味方への支援と回復で忙しいこと。
色々と知ったのだ。
あたしはプリンセスというレアなクラス。
始めた当初はギルドの誰もノウハウがなくて、よく分からなかったんだけど、今はそれなりに出来ることが分かってきた。
あたしのやれることで仲間を助けられるようになってきたのだ。
クラスが高いレベルの魔法はさすがに使えないけど、専用の支援魔法を使えたりする。
高いレベルのは無理でも回復魔法も使えたりするのだ。
疑似ヒーラーも出来るっちゃ、出来るんだけどね……。
あたしも回復するのより、殴る方が好きだから、困る。
それにそんなことじゃ、いつまでたってもフランが成長出来ないって、マリーナさんも心配してるのだ。
困ったことに本人はとっても楽しそうに殴ってるもんだから、周りも本人の気持ちを大事にしようってことで特に注意してない。
あたしもあれだけ、楽しそうなんだから、いいかなって思ってる。
ミレイが普段、どれだけ努力していて、苦労しているのかを知っているから。
ストレス発散するのも悪くないかなって。
「タンクはいつも通り、僕がやるので問題ないかな?」
「うん。ランスのヘイトコントロールなら、大丈夫だよ」
うーん、複雑だわ。
ランスとヴォルフの従弟二人が並ぶとホント、絵になるのよね。
お似合いの二人って言われても無理ないくらいにきれいだもん。
「アタッカーは物理系が私とフラン。魔法系がヴォルフと三人になりますね。作戦名は『殺られる前に殺る』ですわ」
「じゃあ、あたしがバッファー兼ヒーラーってことでいいの?」
「リナのヒールだと回復量が厳しいでしょ? だから、あの作戦名なのですわ」
「私はランスさんがヘイトコントロールをしてから、殴ればいいのでしょう?」
「ええ、そこはいつも通りで構わないです。ただ、今回はイベントボスのドラゴンなので未知数なところが多いです。無理はしないでいきましょう」
エステルはやっぱり、手慣れているというか、さすがとしか言いようがないわね。
ギルドの参謀格として、万事取り仕切っているのは彼女だもん。
フランの性格を考慮に入れて、頭から抑える言い方はしないところなんて、見事すぎるわ。
「分かりましたわ」
「開幕はランスがヘイトコントロール。リナと僕が支援魔法を掛けてから、フランが
ヴォルフによる最後の確認をもって、イベントボス戦への出陣前準備は終わったのである。
ドラゴンと戦うなんて、ドキドキするわね。
ん? ドラゴンって、そう言えば、始めたばかりの時に会ったような……。
「ねえ、ヴォルフ。あなた、ソーサラーだよね?」
「そうだよ。何か、気になることあった?」
「魔法を使うとドラゴンを一撃で切り裂いたり、凍らせたり出来るの?」
あたしが小首を傾げて、そう問い掛けるとヴォルフは眉間に皺を寄せ、難しい顔になった。
「いや、そんな話聞いたことないよ。高レベルの魔術師でもソロでドラゴン討伐はまだ、ないんじゃないかな」
「えっ。そうなんだぁ」
あのドラゴンは今回のイベントボスみたいな強い個体じゃないのかもしれないけど。
それでも片手で切り裂いたり、凍結したリリスって、一体何者なの?
心の中にふと湧いた疑問。
でも、そんな迷いはこれから始まるまだ見ぬ強敵・ドラゴンとの戦いを前に緊張と興奮でいつの間にか、消えていた。
リリスはあたしの迷っている心を押してくれた恩人なんだし。
深く考えるとか、気にするのって、得意じゃない。
今は集中しないとねっ!
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