第9話 猫かぶるのがうまくなっちゃった
「どうしよう」
どこかの町にいるのは間違いない。
見回したところ、人はたくさんいる。
立派な建物があるんだから、町なのは確かだもん。
問題はここが始まりの町なのかってこと。
てゆか、始まりの町ってホントに町の名前なのかしら?
ちょっと怪しいわ。
スミカって、変なところ抜けてるから、町の名前が違ってるなんて……どうすりゃいいのよ。
こんなことなら、ちゃんと説明書を読むんだったわ。
ん?
そもそも、説明書付いてた? 紙切れ一枚だったような……。
最初から、詰んでるじゃない。
リリスはあれだけ強いんだから、かなり遊んでる人よね。
その彼女が始まりの町を知らなかった。
怪しい……。
知らないけど心当たりがある町を思いついたから、そこに送るって、言ったっけ?
「迷子なんてレベルじゃないよね」
リリスから貰ったローブがあって、ホントよかった。
目立たない方がいいって、リリスも言ってたよね。
いくらゲームってたって、こんな知らないところに一人でいたら、まずいってことは分かる。
「すいません。大丈夫ですか?」
行きかう人々と目が合うのも怖いから、俯いていたものだから、不意に声を掛けられるまで気付かなかった。
「ひっ、な、なに?」
目の前にいる銀色に輝く金属の塊が喋ったものだから、焦りを隠せない。
一瞬、バケツが喋ったのかと思っちゃった。
よく見たら、金属の塊じゃないわ。
美術品で見たことのある金属製の鎧――甲冑を着込んだ人みたい。
ヒールを履いてないあたしより、ちょっと小さいかな?
その鎧姿の人は見た目の割に優しい声をしていて。
あたしが知ってる声に似ていて、心が落ち着く感じがする。
でも、気のせいだよね。
「あっ、ごめんなさい。怖がらせちゃったかな……」
「ごめんね、連れが怖がらせたみたいで」
あたしが考え事をしてたのを怖がってると勘違いされたらしくて、鎧のお化けの横にひょっこりと今度は真っ黒けのローブのお化けが現れた。
この町はお化け屋敷なの?!
「ふぁ、変なの増えたし」
思わず、心の声が漏れちゃったわ。
だって、古いお屋敷にある甲冑を着込んだのと目深にフード被った真っ黒クロスケよ? 変じゃない?
あれ? そういえば、あたしもローブでフード目深に被ってたかも……。
「困ってるように見えたから、何か出来ることはないかなって」
「……ふぅーん」
心配して声を掛けてくれたってことだよね?
いい人ぽいから、大丈夫なのかな?
あれ? でも、親切な振りして近付いてくる人に気を付けなさいって、よく言われるんだけど、この場合どうすりゃいいの。
「えっと……実はあたし、このゲーム始めたばっかなんです。そうしたら、何か変なとこに飛ばされちゃって……」
あたしはゲームを始めたのがついさっきであることから、説明をした。
クラスを決めようとしたら、エラーで違う場所に飛ばされてしまったこと、そこで出会った人に助けてもらったこと、そして、ここに送ってもらったもののどうすればいいか、分からなくて困ってることを馬鹿正直に話してしまった。
「なるほどね。それは確かに大変だったね。エラーっていうのはこういうネトゲ、あぁ、ネットゲームなら、たまにあるんだよね。君のエラーは珍しい症状ぽいね」
鎧くんがふんふんと頷き、ホントに心配して考えてくれている感じがする。
「あ、僕はランスロット。皆はランスって呼んでる。それでこの子はヴォルフ」
「あたしはリナリアです。宜しくお願いします、ランスさん、ヴォルフさん」
今更ながらに自己紹介をしてるあたしたちは変なのかしら。
まぁ、いいわ。
このままでスミカのところにたどり着けるかは分からないけどねっ。
「ランス、僕たちも待ち合わせの時間オーバーしているよ?」
「うわっ、本当だ。まずいなぁ」
「えぇ……待ち合わせしてるのにあたしに付き合ってくれてたんですね。ホントにご迷惑おかけして、ごめんなさい」
見た目はアレだけどホントにいい人だったのね。
ちょっとでも疑ってた自分がバカみたい。
「うーん、顔合わせするだけだし、リナリアさんがよければ、一緒に行きませんか? 実は待ち合わせしている人の中に人探しが得意な人がいるんです」
「そうなんですか? それじゃ、お言葉に甘えてばかりで申し訳ないですけど、一緒に行きたいです」
はぁ、あたしの猫かぶりスキルは相当なレベルの高さだよね。
元々、人見知りしすぎなくらいだったから、猫かぶるのがうまくなっちゃったんだけど。
その反動なのかしら?
親しい人にはつい毒吐いちゃうんだよね。
自分でも嫌になっちゃうわ。
ホント、嫌になる。
⚔ ⚔ ⚔
それから、あたしは鎧くんじゃなかったランスさんとヴォルフさんに連れられて、大聖堂へとやって来た。
リアルだと世界遺産になってもおかしくない立派な建物だ。
歴史を感じさせる重厚さの中に荘厳な雰囲気が伝わってきて、背筋が自然と伸びてしまう。
「遅いですよ、あなたたち」
「全く、レディを待たせるなんて……って、あっー!」
大聖堂の前にえらく目立つきれいな子が立っていて、その横に見覚えのある顔と黒髪の小柄な子がいて。
その子と目が合った瞬間、指を指されて、ちょっとびっくり。
ん? もしかして、この子、髪型がいつものおさげじゃないけどスミカじゃないの?
「あなた、もしかして、ス……」
「よくきたわね、私よ、エステルよ。待っていたの、三時間も!」
あたしの言葉を遮るようにスミカもといエステルが言葉を被せてきて、軽くウインクされた。
ふぅん、あぁ、そういうことなのね。
よく分からないけど話を合わせた方がいいってことよね。
「あれ? じゃあ、マスターとエステルが会わせたい人がいるって、リナリアさんのことだったのかな」
「そ、そうなんですよ。ねえ、エステル?」
「え、ええ、そうなの。リナリアが二人に紹介したかった人よ」
ぎこちない。
不自然な笑顔で無理矢理に合わせてる感じがバレバレなんだけど鎧く……もといランスさんは顔が見えないのでどう思ってるのか、いまいち分からない。
ううん、全然分からない。
何を考えているのかすら分からないよね、鎧だし。
「まぁ、皆さん。こんなところでお喋りするより、もっと落ち着いた場所でお喋りしません?」
いつもと違って長い黒髪を下ろさないでポニーテールにしてるけど部長さんだよね? の提案で落ち着ける場所とやらに移動することになった。
って、落ち着いてるけど今、何時なんだろ。
やばくない?
何がって、もしかして、もう夕方じゃないの?
でも、ゲームやめられないんだけど。
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