第4話 アリスちゃんはツンデレ
午後の授業は特にストレス感じることなく、終わったわ。
タケルは足利さんに教科書を貸す。
教科書の無いタケルはあたしの方に机を近づけて、一緒に教科書を見るしかない。
超接近で心音までは聞こえないけど、息遣いは確かに感じる。
授業の内容がほぼ右から左に抜けていったのもしょうがないことよ?
周りからもすごく生温かい目で見られてた気がするし。
それで今、あたしは仲の良いスミカと会議中なのだ。
スミカは
中学・高校とずっと付き合いが続いている親友といっていい存在。
あたしに近付いてきて友達になろうって言ってくる子はたいてい、モデルになりたいとか、芸能界に入りたいっていう打算が見え見えの子ばっか。
だから、上辺だけ仲良いように見えるだけ。
決して、友人ではないのだ。
スミカはそんな子達とは違う。
素のあたしと正面から、付き合ってくれるのはあの二人とスミカくらいだもん。
黒髪におさげで真面目そうな外見のスミカなんだけど、文芸部にいるせいか、妙な知識に偏ってる。
あたしの知らないことをたくさん知ってるのだ。
そう! おばあちゃんの知恵袋みたいに知らないことを何でも教えてくれる。
たまに間違ってるけどね。
「アリスちゃん、それでついに好きって言ったの?」
「……言ってない。誤魔化して、すき焼きって言っちゃった」
それじゃなくても大きな目をこれ以上ないくらい開いて、『あちゃーっ』という表情をしている。
すき焼きはやっぱり、失敗なのね。
自分でもやっちゃったと思ったけど。
「うーん、アリスちゃんはツンデレですもんねぇ。そう言ってるのに人まであーんをしていたんでしょ?」
「そ、それはほら、タケルは食べるのが遅いから、しょうがなく食べさせてあげてるだけよ。それ以上でもそれ以下でもないわっ」
「そんなの甘々な恋人とか、新婚さんのすることでしょ? そこのところ分かってるの、アリスちゃん」
スミカはあたしの両肩にしっかりと手を置き、見つめてくる。
「あなたたちをよーく知ってる周りはもうあなたたちを夫婦みたいなもんって認識してるから、いいのよぉ。でも、そうじゃない人はどうかなぁ?」
「そ、そうなの!?」
「あの転校生、気を付けた方がいいと思わない?」
「足利さんのこと? 確かにかわいいけどタケルなら大丈夫よ」
タケルにはあたしっていうかわいい幼馴染で未来の妻がいるのよ。
余所見なんて、するはずがないもん。
タケルはあたしのことだけを見てくれるって信じてるから。
「うーん、アリスちゃんも楠木くんも純粋過ぎて、逆に心配だよぉ。そうねぇ、部長から教えてもらったんだけどねぇ。聞きたい? 聞きたいよね?」
「何? 何の話なの?」
スミカのお目目がキラキラ輝いているってことは良くないことを企んでいる時なんだよね。
良くないって言ってもあたしが心にもないこと言うから、失敗しちゃうだけでいいところまではいけるんだよね。
つまり、あたしにとってはいい話……でいいんだよね?
「うふふっ、アリスちゃんなら興味持つと思ったよぉ。えっとね、VRMMOって知ってる?」
「VRってバーチャルのでしょ? MMOって???」
「大規模多人数オンラインの略語なんだけどまぁ、簡単に言っちゃうと世界中の人が同じ世界で同じゲームをしてる、みたいな感じ?」
「ふ、ふーん、よく分からないけど、それがどうしたの?」
「実はね。部長から、一緒に遊ぼうって誘われてるゲームがあってねぇ。それがMMORPGっていうんだけど。RPGは分かる?」
「ドラクエとか、FFみたいのでしょ? 遊んだことはないけど何となく?」
「何となくかぁ、まぁ、その方が新鮮な気分で遊べていいかもしれないねぇ。て訳でアリスちゃんも一緒に遊ぼ?」
「へぇ!? あたしもやるの、それ? どうして?」
「最近の技術は進んでるんだってぇ。それでね、主人公っていうか、自分の分身を作れるのよ。アバターって言うんだけどね。なんと、それを自分の容姿そのままで遊べるらしいよぉ。すごいよね」
「へ、へぇ? って、それ、あたしがやって平気なの? あたしのこれとか、これって目立つんだけど」
目立つピンク色の髪を指先で弄びながら、『これって、身バレしちゃうやばいのじゃない?』と思ってしまう。
事務所の社長さんがすごくいい人であたしのことをかなり守ってくれてる。
極力、顔が映らないようなモデルの仕事だけを選んでくれるし。
それなのに大丈夫かなぁ、この目立つ髪と目なのに。
「大丈夫だって。このスミカさんにばぁーんと任せておきなさいって」
自信たっぷりにあたしよりもかなり大きな胸を張って、言い放つスミカを信じちゃいけないと思いつつも信じてしまう。
結局、そのMMORPGの詳しい話を聞いたあたしは帰ったら、すぐにVR機器とゲームをネットでポチることにした。
スミカと別れて、帰り支度をしようと教室に入ろうとするとそこにタケルとこちらに背を向けて、表情の見えないカオルの姿があった。
二人は何か、話をしてるようだけど二人にしては珍しく、苛立ってるのか、声が妙に刺々しい気がした。
ほとんど聞き取れなかったけど聞き取れた言葉にあたしはその場に座り込んで動けなくなった。
「……もう……我慢……好きだから……いいよね?」
「……分かったよ……好き……いいよ」
タケルとカオルがお互いに好きってこと?
あたしなんて、最初から出る幕なかったってことなの?
戦う前に負けてたってこと!?
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