第3話 バカップルじゃないから

 昼休み。

 クラスが違うカオルと合流して、三人で中庭に向かう。

 気心の知れた三人で静かにお昼を食べるのがあたし達の学校でのルーチンだ。

 この学園に給食はないから、お昼を食べるのには二種類どちらかを選ぶしかないわ。

 一つ目は学食。

 ここの学食は高校の施設とは思えないくらいでお洒落なファミレスみたいなのだ。

 見た目だけじゃなくて、味の方も確かでお値段もお手頃ということで学食で食べる学生は結構、多いみたい。

 二つ目はお弁当やパンの持参だ。

 あたしはタケルママこと結奈ゆいなさん公認でタケルのお弁当を任されてるから、自分の分とタケルの分。

 それになぜか、カオルの分までお弁当を作ってるのだ。

 ユイナさん曰く『好きな男を捕まえるにはまず、胃袋だよ』だそうで近い将来、姑になるかもしれない人から、ずっと料理を教えてもらってるあたしに死角はない。

 モデル活動をするくらい見た目が整ってて、料理が出来るんだよ?

 これで告白してくれないタケルって、すごく鈍感なのかな?

 あたしのことを好きじゃないって可能性もあるんだけど、それはあまり考えたくない。

 勉強はちょっと苦手だけど……まさか、そのせい!?


「今日は唐揚げなんだね」

「そうだけど何か、文句あるの?」

「な、ないけど。むしろ、唐揚げ大好きだよ?」


 そうよね。

 タケルが唐揚げが好きなの知ってて、入れてるの。

 タケルはあたしに文句どころか、愚痴も言わないって知ってるしね。

 それに甘えちゃ、駄目だって分かってるのについ甘えてしまう自分が許せない。

 もっとタケルのこと考えて、献立考えないと駄目だよね。


「はい、あーん」

「あ、あーん」

「おいしい?」

「うん、美味しいよ」


 タケルの口に唐揚げを運んであげて、それでもぐもぐ食べているタケルを見ていると幸せな気分に浸れるのだ。

 まるで新婚さんみたいだから。


「あなたたち、ここ学校だけど?」

「そうだね」

「それが問題あるの? カオルも早く食べないと昼休み終わっちゃうわよ」


 いつものことなのにカオルの視線が冷たい。

 慣れてるから、どうってことないけど慣れてない子が見たら、勘違いするかも。

 カオルが怖い子だって。

 本当は誰よりも優しくて、意外と熱血なんだよね。

 それに他の誰よりもあたしとタケルのことを心配してくれてるってのも分かってる。


「卵焼きもあるの。どう? はい、あーん」

「あーん」

「どっちもどっちね。バカップルさん、ごちそうさまでした。はぁ、お先に失礼するわ」

「「バカップルじゃない(わ)!」」


 実はカオルは食べるのがすごく早い。

 身体に悪いんじゃないのって、言っても癖はそうそう直らないものらしい。

 カオルもいなくなって、あまり人が来ない中庭は静かでまるでタケルと二人きりみたい。

 もしかしたら、今なら言えるんじゃない?


「あ、あのね。タケル」

「ん? どうしたの?」

「あ、あの……あたし、タケル……す、す……」

「す……?」

「すき焼きでいいよね?」

「は!? え、うん。すき焼きでいいよ。夕食の話……だね」

「夕食に決まってるでしょ」

「うん、そうだよね」


 気まずい空気になってしまった。

 どう考えても今の雰囲気は好きって言わなきゃいけなかったのに。

 どうしよう……タケルも変だって思ったはずだし。

 顔が熱いから、真っ赤になってるのかも。

 タケルの頬もあたしが変なこと言ったせいか、頬が赤いし、目が泳いでるよ。

 まずい、やばい、どうしよう。

 そんなあたし達を嘲笑うかのように昼休み終了五分前の予鈴が鳴るのだった。


「教室戻ろうか」

「わ、分かってるわよ。さっさと戻りましょ」


 結局、いつものように心とは真反対のことを言ってしまって、挽回しようとタケルの手を握って、教室に戻るのがあたしの精一杯だった。

 そんなあたしは足利さんがその様子を興味深げに観察していたなんて、気付きやしなかった。

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