第38話 残高照会 ◇オフライン◇


 一旦、ノインヴェルトをログアウトした俺は、一向にログインしてこない名雪さんにメッセージを送ることにした。



 スマホを手に取り、ポチポチとやる。




 ユウト『どうした? 何か用事でも出来た? 俺はフロニカの国境近くまで移動しておいたから、明日はそこで落ち合おう』




 送るだけ送った。

 あとは反応待ち……っと。



 その間にアレを確認することにした。

 そう、金だ。



 この前と同じなら、今日、ゲーム内で稼いだ分が財布の中に入っているはず。



 俺は期待に胸躍らせながら財布の中を広げてみた。

 すると、



「……ん?」



 違和感を覚える。

 確かに、そこに万札が入ってはいるが、枚数が少ない気がする。



 数えてみると10万円だった。



「おかしいぞ……これはこの前の……」



 前回、100万近くを稼いだ時、10万を装備品購入に充て、残り90万円が財布に入っていた。



 その際、手元に現金として10万円を残し、残り80万円は自分の銀行口座に預けたのだ。



 今日の冒険で所持金が約140万G近くになっていることから、ここには50万円ほどが入っていないとおかしい事になる。



 しかし、財布の中身は取り置いておいた10万円のままだった。



「増えていない? どういうことだ?」



 リアルに反映するには何か条件が必要なのか?

 いや、全てのステータスが同期されている中で、それだけが特別だなんて有り得ない。

 何か他に理由が――。



「あ……」



 その時、不意に思い当たった。



 俺は再びスマホを手にすると、自分の銀行口座があるインターネットバンキングのアプリを立ち上げる。



 ログインして、すぐに残高照会を行ってみた。

 すると――、




[残高]

 1,352,111円




「やはり、そうか」



 今回、ゲーム内で稼いだ分がそのまま口座に反映されていた。

 どうやら金を入金したことによって、銀行口座も俺の財布と判断されたっぽい。



 紐付けされたのなら、それはそれで便利だ。



 しかし、そうなってくると気になることがある。



 口座に入金があれば、入金先の口座名が取引内容に表示されるはずである。

 この場合、誰から入金されたことになっているのだろうか?



 ノインヴェルトの運営?

 それともソフトウェア制作会社?



 そこに俺のステータスがリアルと同期した原因……その手掛かりがありそうな気がする。



 俺は緊張した指先で出入金明細の項目に触れた。




[お預かり入れ]500,111  [取引内容]キリシマユウト(振り込み)




「……は?」



 振り込み名を目にして俺は一瞬、固まってしまった。


 俺が俺に振り込んでるだと?



 勿論だが、そんな筈はない。

 じゃあ、同姓同名の誰か?

 しかし、それもそれで考えにくいし、同性同名の人が俺に振り込む意味も分からない。



 何か分かればと思ったが、ただただ恐ろしくなっただけだった!



 まあ……今の所、俺に不利益は無いことだし、見守っておくことにしよう。



 それはともかくとしてだ。



 名雪さんにメッセージを送ってから、だいぶ経ったが、一向に返事が無い。

 メッセージアプリ上で確認しても、その前に送ったメッセージから既読が付いていなかった。



 何かよっぽど手が離せないことがあるらしいな。

 なら、また後にして、詳しいことは学校で聞こう。



 時計を見ると、午前三時。

 今日も遅くまでノインヴェルトをやり過ぎてしまった。

 そろそろ寝ないと、明日にも響きそうだ。



 そんな訳で俺は眠りに就くことにした。


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