第30話 湧き待ち ◆オンライン◆
俺とユーノはゴーレムを倒しながらダンジョンを進んでいた。
ゴーレムが目の前に現れる度に俺が魔法で瞬殺しているので、彼女がダメージを追うという心配はほぼ無かった。
しかし、かれこれ数十体のゴーレムを倒して来ているが、一向にお目当ての
アイテムボックスに、いらない粘土と鉄鉱石が貯まっていくだけだ。
単調過ぎて、いい加減眠くなってきた。
もう諦めて引き返そうかな?
なんて思い始めていた、その時だった。
前方の通路に結構な数のプレイヤー達が立ち止まっていたのだ。
数にしたら十五人くらい。
装備や職業の比率からして、三、四パーティはあると思う。
この古代遺跡に挑むだけあって皆、それなりのレベルだったが、どういう訳か全員、その場に突っ立ったまま動かないのだ。
不思議に思った俺は、一番手前にいた気の良さそうなドワーフの人に話しかけてみた。
「あのーすみません」
「ん?」
「皆さん、ここで何してるんです?」
そこまで尋ねるとドワーフの彼は、疲れ切った顔で肩を竦めてみせた。
「何って、待ってるのさ」
「待ってる?」
「そう、
「はあ、なるほど」
そう言われて、ようやく合点が行った。
ネームドモンスターのような特別なモンスターは、貴重なアイテムや高額な装備をドロップしたりする為、滅多なことではお目にかかれない。
その反面、出現には規則性がある。
例えば、決まった場所の決まったポイントに1時間に一回ポップするとか、そういった感じ。
希少性が高いものは、それだけ競争率も高く、こんなふうに湧き待ちをすることが多々あるのだ。
それがクエスト達成に必要なアイテムだったりすると、順番待ちなんかも出来たりする。
「ちなみに、そのネームドっていうのは……?」
「グリッターゴーレム。なんでも高価なアイテムを落とすらしい」
そこで俺とユーノは顔を見合わせた。
恐らく、そいつが俺達の求めていたモンスターだ。
「やっと見つけた。じゃあ、これが順番待ちの列ってことで?」
すると、ドワーフの彼は長い白髪の髭を撫でながら、怪訝な表情を見せる。
「あんた達もアレに挑戦する気か?」
「まあ、そんな所です」
「なら、諦めた方が良い」
「へ?」
思ってもみなかった答えが返ってきて、きょとんとしてしまった。
「どういう意味です?」
「あれを見れば分かるさ」
ドワーフの人が、プレイヤー達が作っている人垣の奥を指差した。
なので俺は隙間から奥を覗いてみた。
そこには、これまでの細い通路と違い、小部屋のような空間が広がっていた。
ダンジョンRPGなんかで言ったら、中ボスとか出てきそうな雰囲気のある部屋だ。
その部屋の中央に三人組のパーティが陣取っている。
見た所、
多分、あの場所に例のグリッターゴーレムが湧くのだろう。
彼らはそれを待っているといった様子。
だが、それのどこに諦める理由があるというのだろうか?
「彼らが何か?」
ドワーフに尋ねた。
すると彼は眉間に皺を寄せる。
「あいつら、あそこでずっと……ああしているのさ」
「……」
「高額なドロップ品が出るもんだから、あの場所に陣取って自分達だけで独占してるんだ。だが、ここにいる人達は皆、そのドロップ品が目的じゃない」
「え」
「
ドワーフの彼は目を細める。
「だが奴らはレベル30台。文句を言いに行った奴らは、みんな返り討ちに遭ってしまってな……。なんとかして獲物を奪おうにも隙が無い。しかもネームドのポップ間隔は4時間ときてる……。だから皆、疲弊してしまって……諦めてログアウトする者もちらほら……」
彼は溜息を吐いて壁に寄りかかった。
「……」
まさかそんな事が起きているとは……。
てか、クラスチェンジとかいう重要なイベントに、そんな高額アイテムをドロップするモンスターを絡めるなよって、開発に言いたい。
後々、アップデートで修正入りそうな感じだが、今の所はそれが条件なのだから仕方が無い。
「ユウト……どうする?」
一連の事情を聞いていたユーノが、不安そうに尋ねてきた。
「そうだな……。せっかくここまで来たけど待つのもしんどいし……諦めて帰るかな」
4時間毎に1ポップだろ?
少なくともここには四パーティいるから、最低でも16時間待ちだ。
そんなの待ってられない。
そこへ行くと、さっきのデスハウンド。
一時間で二十匹も狩れば、時給2千円だもんな。
バイトとしては破格の給料だ。
端から堅実に行くべきだった。
そんな訳で俺達はダンジョンから引き返すことにした。
ドワーフの人に礼を言って、その場を離れようとする。
その最中だった。
「おい、なんか、おもしれーのがいるぞ」
小部屋の方からそんな声が上がった。
その声が場所を陣取っている連中のものだと、すぐに分かった。
「なんだ、またネームド狙いが増えたのか?」
「違う違う、あれ見てみろよ」
すると
「は? 初期装備じゃないか。どれどれ……レベル11と……8!? ぶははっ! なんだよ、よくそんな低レベルでここまで来られたな!」
「もしかして、高額アイテム狙いで目一杯背伸びして、必死になって辿り着いた口? くく……残念っ! おこぼれはありませんでしたー!」
「……」
するともう一人の仲間である
「この機会に自身の身の程っていう奴を教えてやった方がいいんじゃないですかねえ?」
「違えねえ」
「だな」
他の二人は同意を示した。
俺は思う。
これって、もしかして……面倒臭い奴に絡まれた?
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