第31話 チーターじゃねえ ◆オンライン◆
「丁度、待ちが長すぎて退屈してたところなんだ。いい暇潰しになる」
どうやら彼らは弱い者虐めが大好きらしい。
周囲にいた他のプレイヤーはとばっちりを受けまいと、蜘蛛の子を散らしたように退いて行く。
だが、そんな中で一人だけ前に出た者がいた。
俺達に色々教えてくれた、あのドワーフのおっさんだ。
(実際、中の人はおっさんじゃないかもしれないが、見た目が白髪の髭面なので)
「あ? なんだてめぇは? 俺達とやるってのか? レベル23のドワーフさんよ?」
「そんな気は無い。俺はただ、こんなにレベル差のあるプレイヤーにまで手を出そうとするのはどうかと思っただけだ」
ドワーフの彼は俺達を庇うように前に立ちはだかる。
状況を知りたいが為に何気なく話しかけた彼だったが、結構正義感の強い人だったようだ。
するとそこで、
「そうかい。なら、お前が先に死にな」
振りかざされたナイフに対し、ドワーフの彼は反撃の素振りを見せなかった。
恐らく、抵抗したところで勝てないと分かっているからだろう。
それよりも、この隙に俺達に逃げろと言ってくれているようにも映る。
こんないい人を放っておけるわけないじゃないか。
俺は杖をかざし唱える。
「ファイア」
「は?」
傍で不意に唱えられた初級魔法に
だが次の瞬間――、
火球が激しく燃え上がり、
「ほっ!? ほぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
彼は苦しみ藻掻きながら絶叫した。
瞬く間に炎は彼の体を焼き尽くし、この場から消え去ってしまう。
「な……」
ドワーフの彼は目の前で起こった出来事が上手く呑み込めず呆然としていた。
それは
「な……なんだ、今のは……。キースが一撃でやられてしまったぞ……。しかもレベル8の奴に……」
キースというのは恐らく、今は死んでしまったあの
それにしてもレベル32の
我ながら、とんでもないぶっ壊れ性能だな。
「た……ただのファイアが……そんなに攻撃力が高いわけがありませんよ……。おかしいです!」
沈着そうに見えた
「……攻撃力倍増のアイテムでも使ってるのか?」
「そんな程度の威力じゃありませんよ……あれは」
彼らの中で色々と推察が始まっていた。
「でも――」
と
「所詮はレベル8の
彼は唐突に攻撃を仕掛けてきた。
そこへ俺は再びファイアを放つ。
しかし、彼は重い鎧を着た
そこはさすがレベル35と言った所か。
「へっ! そんなの当たらなければいいだけの話よ!」
左右に避けながら間合いを詰めてきた彼は、俺に向かって大剣を振りかざす。
「これで終わりだぁっ!」
極厚の
「ロックバイト」
「っ!? 足が……! 動かねえ!」
対象を噛み殺す岩の魔法、ロックバイトだ。
「な、なんだこれは……!?」
岩は騎士の体に絡みつき、体ごと中へと呑み込んで行く。
「う、うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!」
完全に岩の中に呑み込まれた
ロックバイト、初めて使ったけど、結構使えるな。
足下から狙うから気付かれにくいし。
これは魔法の試し打ちに丁度良い。
なんて事を思っていると、残る最後の一人、
「この常識外れの威力……分かりましたよ。あなた、チーターですね!」
彼はぷるぷる震える手で俺を指差した。
なんか勝手なこと言い出したぞ……。
チーターじゃねえーっての。
まあ、明らかに度を超えたステータスであるとは思うけど……運営もちゃんと認めてるんだからチートではない。
「チートだってさ……」
「え、このゲーム、もう解析されちゃったの……?」
ほら、そんなこと言うから周りがザワついてきちゃったじゃないか。
「残念ながらチートではない。そう思うなら通報でも何でもしてくれ」
「むむ……」
チーターは垢BANされるのが一番困るわけで、それを自ら願うチーターはいない。
「そんな訳で、もういいだろ? 俺達もやる事があるからさ」
そもそも装備を買う為に、お金を貯めに来たんだ。
こんな所で油を売っている暇は無い。
だが、そこで馬鹿にされたと思ったのか、
「ぐぬぬ……いい気になりおって……。今、ここで
そう言うと彼は懲りもせず魔法を放ってきた。
魔力が集束し、高熱源体が彼の体前に生成される。
さすがは二次職だけあって、それなりに派手な魔法らしい。
「くたばりなさい! エクスプロージョン!」
熱の塊が俺に向かって放たれた。
恐らくそれは、その名の通り、俺にぶち当たった所で大爆発を起こす魔法だ。
だが、そうなる前に俺はただのファイアを放った。
魔法レベル3に到達しているファイアと、魔法攻撃力のステータスの高さを鑑みれば多分、レベル30の
「ただのファイア?? そんなもので私の魔法に打ち勝てるとでも……っあ!?」
嘲笑おうとした表情が一瞬で凍り付いた。
俺の放ったファイアが、エクスプロージョンを呑み込んで打ち消したのだ。
「そ、そんな……馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
迷惑なパーティが一掃されると、ネームドモンスターを狙っていたプレイヤー達から歓喜の声が上がる。
心配そうに見守っていたユーノも安堵の表情を浮かべていた。
と、そこで、視界の端にリザルトが表示される。
[1121ptの経験値を獲得しました]
[ダイヤモンド鉱石×10を手に入れた!]
[2000Gを手にした!]
『パラッパッパッパー』
なんか色々、一遍に来たぞ……。
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