第31話 チーターじゃねえ ◆オンライン◆


「丁度、待ちが長すぎて退屈してたところなんだ。いい暇潰しになる」



 騎士ナイトを先頭に、狩り場を占拠していたパーティが俺達に近付いて来る。



 どうやら彼らは弱い者虐めが大好きらしい。



 周囲にいた他のプレイヤーはとばっちりを受けまいと、蜘蛛の子を散らしたように退いて行く。

 だが、そんな中で一人だけ前に出た者がいた。



 俺達に色々教えてくれた、あのドワーフのおっさんだ。

(実際、中の人はおっさんじゃないかもしれないが、見た目が白髪の髭面なので)



「あ? なんだてめぇは? 俺達とやるってのか? レベル23のドワーフさんよ?」



 盗賊シーフの彼が食ってかかった。



「そんな気は無い。俺はただ、こんなにレベル差のあるプレイヤーにまで手を出そうとするのはどうかと思っただけだ」



 ドワーフの彼は俺達を庇うように前に立ちはだかる。

 状況を知りたいが為に何気なく話しかけた彼だったが、結構正義感の強い人だったようだ。



 するとそこで、盗賊シーフの彼が持っていたナイフを取り出した。



「そうかい。なら、お前が先に死にな」



 振りかざされたナイフに対し、ドワーフの彼は反撃の素振りを見せなかった。

 恐らく、抵抗したところで勝てないと分かっているからだろう。



 それよりも、この隙に俺達に逃げろと言ってくれているようにも映る。



 こんないい人を放っておけるわけないじゃないか。



 盗賊シーフのナイフがドワーフの胸を突き刺さる、その刹那だった。

 俺は杖をかざし唱える。



「ファイア」

「は?」



 傍で不意に唱えられた初級魔法に盗賊シーフは気の抜けたような声を漏らした。

 だが次の瞬間――、



 火球が激しく燃え上がり、盗賊シーフの体全体を包み込む。



「ほっ!? ほぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



 彼は苦しみ藻掻きながら絶叫した。

 瞬く間に炎は彼の体を焼き尽くし、この場から消え去ってしまう。



「な……」



 ドワーフの彼は目の前で起こった出来事が上手く呑み込めず呆然としていた。

 それは盗賊シーフの仲間も同様で、



「な……なんだ、今のは……。キースが一撃でやられてしまったぞ……。しかもレベル8の奴に……」



 騎士ナイトは愕然とした様子で棒立ちになっていた。

 キースというのは恐らく、今は死んでしまったあの盗賊シーフの名前だろう。



 それにしてもレベル32の盗賊シーフを一撃で倒してしまったぞ……。

 我ながら、とんでもないぶっ壊れ性能だな。



「た……ただのファイアが……そんなに攻撃力が高いわけがありませんよ……。おかしいです!」



 沈着そうに見えた大魔導師ハイウィザードの彼も動揺を隠せない様子。



「……攻撃力倍増のアイテムでも使ってるのか?」

「そんな程度の威力じゃありませんよ……あれは」



 彼らの中で色々と推察が始まっていた。



「でも――」



 と騎士ナイトが続ける。



「所詮はレベル8の魔法使いウィザードだ。防御力は大したことはない。先にぶった切ったもん勝ちよ!」



 彼は唐突に攻撃を仕掛けてきた。

 そこへ俺は再びファイアを放つ。



 しかし、彼は重い鎧を着た騎士ナイトとは思えない身軽さで火球を避ける。

 そこはさすがレベル35と言った所か。



「へっ! そんなの当たらなければいいだけの話よ!」



 左右に避けながら間合いを詰めてきた彼は、俺に向かって大剣を振りかざす。



「これで終わりだぁっ!」



 極厚の両手剣トゥハンドソードが俺の額をかち割ろうとしたその瞬間、



「ロックバイト」

「っ!? 足が……! 動かねえ!」



 騎士ナイトは、足下から盛り上がってきた岩に足を掴まれていた。

 対象を噛み殺す岩の魔法、ロックバイトだ。



「な、なんだこれは……!?」



 岩は騎士の体に絡みつき、体ごと中へと呑み込んで行く。



「う、うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!」



 完全に岩の中に呑み込まれた騎士ナイトは、岩と共に砕け散った。



 ロックバイト、初めて使ったけど、結構使えるな。

 足下から狙うから気付かれにくいし。



 これは魔法の試し打ちに丁度良い。

 なんて事を思っていると、残る最後の一人、大魔導師ハイウィザードの彼が何かに気付いたようでハッとした表情を見せた。



「この常識外れの威力……分かりましたよ。あなた、チーターですね!」



 彼はぷるぷる震える手で俺を指差した。



 なんか勝手なこと言い出したぞ……。

 チーターじゃねえーっての。



 まあ、明らかに度を超えたステータスであるとは思うけど……運営もちゃんと認めてるんだからチートではない。



「チートだってさ……」

「え、このゲーム、もう解析されちゃったの……?」



 ほら、そんなこと言うから周りがザワついてきちゃったじゃないか。



「残念ながらチートではない。そう思うなら通報でも何でもしてくれ」

「むむ……」



 チーターは垢BANされるのが一番困るわけで、それを自ら願うチーターはいない。



「そんな訳で、もういいだろ? 俺達もやる事があるからさ」



 そもそも装備を買う為に、お金を貯めに来たんだ。

 こんな所で油を売っている暇は無い。



 だが、そこで馬鹿にされたと思ったのか、大魔導師ハイウィザードの彼はブチ切れてしまったようだった。



「ぐぬぬ……いい気になりおって……。今、ここで大魔導師ハイウィザード魔法使いウィザードの格の違いを見せてあげますよ!」



 そう言うと彼は懲りもせず魔法を放ってきた。

 魔力が集束し、高熱源体が彼の体前に生成される。



 さすがは二次職だけあって、それなりに派手な魔法らしい。



「くたばりなさい! エクスプロージョン!」



 熱の塊が俺に向かって放たれた。

 恐らくそれは、その名の通り、俺にぶち当たった所で大爆発を起こす魔法だ。



 だが、そうなる前に俺はただのファイアを放った。



 魔法レベル3に到達しているファイアと、魔法攻撃力のステータスの高さを鑑みれば多分、レベル30の大魔導師ハイウィザードが放つ魔法は余裕で上回れるはず。



「ただのファイア?? そんなもので私の魔法に打ち勝てるとでも……っあ!?」



 嘲笑おうとした表情が一瞬で凍り付いた。



 俺の放ったファイアが、エクスプロージョンを呑み込んで打ち消したのだ。



「そ、そんな……馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁっ!?」



 大魔導師ハイウィザードはそのまま炎に包まれ、綺麗さっぱり燃やし尽くされてしまった。



 迷惑なパーティが一掃されると、ネームドモンスターを狙っていたプレイヤー達から歓喜の声が上がる。



 心配そうに見守っていたユーノも安堵の表情を浮かべていた。



 と、そこで、視界の端にリザルトが表示される。




[1121ptの経験値を獲得しました]

[ダイヤモンド鉱石×10を手に入れた!]

[2000Gを手にした!]



『パラッパッパッパー』




 なんか色々、一遍に来たぞ……。


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