第29話 古代遺跡 ◆オンライン◆


 俺とユーノは、もっと稼げるモンスターを求めて古代遺跡の前までやって来ていた。



 そこはまるで神殿のようだったが、遺跡だけあって石造りの建物はほとんど崩壊しており、風雨で侵蝕された石柱だけが残っている場所だった。



 割れた石壁の中から草木が繁茂し、蔦が絡まっている。

 なかなかリアルな造りのこれが、全てVRだって言うんだから驚きだ。



 そんな古代遺跡の最奥に一つだけ健在な建物がある。

 今にも崩れ去りそうではあるが、冒険者を迎え入れるように扉が開かれていた。



 扉の奥には闇が広がっており、さながら地下神殿への入口のようだった。



「その稼げるモンスターってのは、この中?」

「うん、多分」



 多分というのは彼女も情報でしか知らないからだ。

 自分で確かめようにも、ある程度のレベルにならないと潜れないのだから仕方が無い。



 恐らく、そのモンスターってのは名有りネームドである可能性が高い。

 大体、そういう特別なモンスターが高価なアイテムをドロップしたりするから。



「ここまでありがとうな。じゃあ、俺行ってくる」



 そう告げて、単身地下神殿へ降りようとした時だ。



「ちょっ!? ちょっと待ったーっ!」

「え? 何?」



 突然、ユーノが物凄い勢いで呼び止めてきたのだ。



「『え? 何?』じゃないよ! 私も一緒に行くよ?」

「え?」



 そう来るとは思ってもみなかったので、ぼんやりしてしまった。



「一緒にって……この遺跡って推奨レベル20だよ? ユーノのは今11だろ? そのレベルだと危ないぞ?」

「レベル8の人に言われると、あんまり説得力ないんだけど」



 彼女は唇を尖らせながら言った。



「俺はまあ……ね?」

「最初から一人で行く気だったなんて……寂しいよ。私達は天国でも地獄でも、いつでも一緒でしょ?」

「あんまり地獄には行きたくはないがな……」



 彼女は、どうあっても一緒に行きたいようだ。



「守り切れないかもしれないぞ?」

「別にいいよ。ゲームなんだから死んでも問題無いし」



 随分とあっさりしてんな。

 ゲームだからこそ何度死んでもやり直せるが、それでも死ぬ時はあんまりいい気分はしない。

 前作のアインズでも何度も死んだけど、翌朝の寝覚めが悪かったもんなー。



「じゃあ行くか……」

「うん!」



 改めて仕切り直し。

 俺達は二人揃って地下遺跡の中へと足を踏み入れた。



 内部はというと――いわゆるダンジョンという感じ。

 石壁の曲がりくねった複雑な通路が長々と続く。



「こういう狭い空間では、弓使いアーチャーは戦い難そうだな」

「そうだね。でも、狭い分、至近距離からの攻撃になり易いから命中率は上がるかも。例えばこんなふうに目の前に……って、出たぁぁぁぁぁぁっ!?」



 俺の腕に手を回しながら歩いていたユーノが、急に抱きついてきた。



「何? どうした?」



 言いながら彼女の視線の方向へ振り返ると、いつの間にかそこには石の体を持った巨体――ゴーレムが立っていた。



「おっ、早速出たな!」



 ゴーレムはその太い腕を振り上げ、俺達に襲いかかってくる。



 ゴーレムは恐らく土属性のモンスターだ。

 となると、弱点になる属性は〝風〟か。

 でも俺、風系の魔法一つも覚えてないや。



 仕方が無い。

 火属性でいっか。



 俺はすかさず、ファイアの魔法を放つ。

 それだけで、燃え上がった火球がゴーレムの胴体に風穴を空けた。



「グゴォォォォォォ……」



 ゴーレムは低い叫びを上げながら、砂のようになって崩れて行く。

 圧倒的な魔法攻撃力の高さで、あっさり終了。




[154ptの経験値を獲得しました]

[粘土×1、鉄鉱石×1 を手に入れた!]

[10Gを手にした!]




 そんな通知がコンソールの端に流れる。



 格上のモンスターだけあって経験値はそこそこ貰えたが……。

 金、少なっ!



 どうやらこいつは普通のゴーレムだったようだ。

 こんなんじゃ、デスハウンドの方がよっぽど美味しいなあ……。



 ドロップアイテムとして粘土と鉄鉱石が出たけど、これは鍛冶士ブラックスミスとか錬金術士アルケミストとか生産系の職業に需要があるかもしれない。だけど、そんなに高く売れそうなものでもなさそうだ。



「まあいいや、この調子でどんどん進もう。そのうちお目当てのモンスターに当たるかもしれないし」

「う、うん……」



 ユーノは渇いた笑みを浮かべていた。



「なんか……私の出番なさそう……」



 そこから更に奥へと進むと、ゴーレムばかりが次々に沸いて出て来た。

 まるで地下に眠るお宝を守る番人のようでもある。



 そいつらを俺は魔法でバッタバッタと薙ぎ倒して行く。

 オートマジックヒールが効いているのでMP切れの心配も無いし、歩きながら視界に入ったゴーレム全てにファイアを放って進んで行く。

 ノンストップバトル状態である。



 途中、同じダンジョンに潜っていた別のパーティの横を通り過ぎた時があった。

 その際、こんな声が耳に入ってきた。



「おい……今の二人……初期装備じゃなかったか?」

「まさか……そんな装備じゃ、この遺跡には挑めないだろ……」

「でも、見間違いじゃなければ……あいつらレベル8と11だったぜ……」



「「「マジか……」」」

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