第27話 カツアゲ禁止 ◇オフライン◇


「う……うう……」



 俺の前でぶっ倒れていた不良達三人が、呻き声を上げながら半身を起こし始める。



「ようやく目が覚めたか」



 待ちくたびれていた俺がそう投げかけると、こちらの存在に気付いた彼らが目を見開いた。



「ひっ……ひぃぃぃっ!?」



 不良達は俺の存在を認めるや否や、慌てたように壁際に張り付き、怯えた表情を見せる。



「そんなに怯えなくてもいいのに」



「ひっ……!?」

「っあ!?」

「!?」



 俺が一歩踏み出しただけで悲鳴が上がる。



「あんな重いパンチ……これ以上、受けたら……死んじまう……」

「スタンガンとか、マジやべぇ……」



 ノッポと太っちょが細い声で呟いた。



 どうやら俺のサンダーの魔法を強力なスタンガンだと勘違いしているらしい。

 威力を抑えたそれは、まあ……似たようなもんか。



 そこで、リーダーの少年が必死の形相で訴えてきた。



「もっ……もういいだろ! お、俺達の負けだ! だから、もうやめてくれっ!」



「別に俺は勝ち負けを付けたい訳じゃないんだが」

「だ、だったら……何を……?」



「だから、さっきから言ってるじゃん。俺の金を返せって」

「か……金……」



 ここまでボロボロにしておいて、まだそう来るとは思ってなかったのか、彼らは呆然としていた。



「でも……全部使っちまったんで……」

「バイトでもして返せよ」



「バイト……」



 不良達は互いに顔を見合わせる。



 俺は自分で言っておいて、間違ったと思った。

 こいつらが世間様の中に入って、まともに働いている姿が想像出来ない。

 寧ろ、迷惑を掛けまくってる光景しか浮かんでこない。



 彼らも自分達が働くことを想像出来ていないのか、先ほどからきょとんとしている。



 駄目だ……。

 こんなこと言うと、こいつらまた誰かからカツアゲして、その金を俺の所に持って来たりしかねないぞ……。



「ちなみに今後一切、カツアゲ禁止な」

「えっ……」



 不良達は驚いた顔をする。



 ほら、この反応はやっぱりそうだ。

 釘を刺しておかないとな。



「もし見かけたら、その時はどうなるか分かってるな?」



 俺はそれとなく拳を握って見せる。

 それだけで、彼らは顔面蒼白になった。



「わ、わわわわ分かりました! もう二度とカツアゲはしませんっ!」



 リーダーの少年が緊張した面持ちで宣言した。



「それ以外の悪事も全て禁止な」

「は、はい!」



 こいつらが、どれが悪事か、そうでないか、ちゃんと分かってるかどうかが不安だが、とりあえずはこれで良しとしよう。



「じゃあ、俺の貸した金は真っ当に働いて返すってことでOK?」

「はいっ! 分かりました。兄貴!」



 兄貴っ!?

 なんか変な呼ばれ方してんぞ……!

 突然、舎弟が出来たような気分だ。



 でも、こんな奴ら舎弟にしたくないけどな。



「んじゃ、俺はこれで」



 もう、ここに用は無い。

 俺は通りに足を向けた。



 そこで去り際に一言付け加える。



「あ、そうだ」

「?」



「特に何が……っていう訳じゃないが、借りた金に利子が付くっていうのは常識だよな?」

「利子……ですか……」



 それとなく遠回しに要求してみる。



 すると彼らは急に立ち上がり――、



「頑張らさせて頂きます!」



 気を付けの姿勢で、そんな声を上げるのだった。



 なんだかなぁ……と思いつつ通りに出ると、名雪さんが建物の角で不安そうに待っていた。



「お待たせ」

 ユーノ『何をしてたの?』



「いや、ちょっと知り合いを見かけて。もう用事は済んだから、行こ」

「……」



 あいつらに顔を合わせたら、彼女に嫌な記憶を思い起こさせてしまう。

 だから俺は早々に立ち去ることにした。



 そういえば奴ら、名雪さんを襲おうとしてたんだよな。

 だったら、もうちょっと痛めつけといてもよかったかな?



 そうだ、今度、金返してもらう時にやっとこう。



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