第26話 全額返してもらおう ◇オフライン◇


 俺は路地裏でオタク狩りをしている不良達に近付いて行った。



 性根の悪さが滲み出たような顔立ちの少年達。

 ノッポと太っちょ、そして普通の体格であるリーダーの三人だ。



 すると彼らもこちらに気付いたようで……下から見上げるような、よくありがちなスタイルのガンを飛ばしてきた。



「ああん? んだてめぇ?」



 背の高い少年が、そう言ってくる。

 だが彼は、そこまで口にしたところで顔を引き攣らせた。



「っあ!? て、てめえは……あの時の……!」



 どうやら覚えていてくれたようだ。

 他の二人もほぼ同時に俺の顔に気付き、体を硬直させる。

 余程、炎で炙られたことが恐怖として残っているようだ。



 この隙に俺は絡まれていたオタク少年に視線を送った。

 少年はこちらの意図に気付いてくれたようで、礼を言うように無言で頭を下げ、素早くその場から立ち去って行った。



「な……なっ……なんで……お前が、ここに??」



 リーダー格の少年が恐る恐る聞いてくる。



「別に理由はないさ。たまたま覗いたら、お前らだっただけのこと」

「……」



 彼はわざわざ声をかけてきた俺の存在が不安でならないようだ。



「お……俺達に何の用だ?」

「何の用? あ、そうだった」



 彼らがあんまりビビってるんで、それが面白すぎて忘れるところだった。



「この前、お前らに金を貸したよな? あれを全額返してもらおうと思って」

「か……金だと……?」



 そこで不良達は顔を見合わせ、今一度確かめ合うような仕草を見せた。

 そして、急に不適な笑みを浮かべる。



「けっ……そんなもんある訳ねえだろ!」



 リーダー格の少年が突然、悪態をつき始めた。



「あれ? ないの?」

「ははっ、あんな小銭、とっくに全部使っちまったさ!」

「そいつは困ったな」

「……」



「できれば穏便に済ませたいんだが」

「ああん? てめぇ調子こいてんじゃねえぞ!」



 とうとう我慢がならなくなったのか、リーダー格の少年が噛み付いてきた。

 まったく、学習能力の無い奴らだ。



「ガスバーナーを振り回さなければ、何も出来ねえクソ餓鬼のくせにイキってんじゃねえよ!」

「ガスバーナー??」



 思わぬ単語が出てきて唖然としてしまった。



 どうやら彼らは、俺が放ったファイアの魔法をガスバーナーの炎を撒き散らしたと勘違いしているらしい。



 まあ実際、手から炎が出るだなんて想像しないだろうからな。

 あとは精々、灯油を含ませた布玉に火を付けて投げることくらいしか想像出来ないだろう。



 ガスバーナーだと思ってるなら、それはそれで好都合だ。

 彼らは今の俺が丸腰だと知って強気になってるっぽいし。



「金が無いなら働いて返せ」

「なんだと……?」

「借りた物は返す、それが常識だろ?」

「……ざっけんなっ!!」



 ブチ切れた少年は俺に殴りかかってきた。

 しかし、今の俺にはスローモーションにしか見えない。

 軽く身を傾けて、それをさっと躱す。



「なっ……!?」



 彼は自分のパンチが擦り抜けたことを不思議そうにしていた。

 こんな奴ら、スキルも魔法も使うまでもない。

 基本ステータスだけで圧倒出来る。



 だが俺には、ちょっと試してみたいことがあった。



「あんまり遅すぎて、毛玉が飛んできたのかと思ったぞ?」



 俺は彼らのアフロ髪を見渡しながら、わざと挑発してみせた。



「っ!? く、くそがぁっ!!」

「なめんなぁぁっ!」



 他の二人が、見事その挑発に乗って殴りかかってくる。



 俺はそいつらの攻撃を身を翻して躱すと、今度は握り拳を腹に叩き込む。



「ごほぉあぁっ!?」

「うげぇぇぇぇぇ……」



 途端、彼らは腹を押さえて地面にうずくまってしまった。

 かなり効いているようだ。



 しかし、これでもかなり力を加減したのだ。

 物理攻撃が通常の数十倍になっている為、そうでもしなければ死んでしまいかねない。



 こんなどうでもいい奴を殺して犯罪者にはなりたくないからな。



 でもこれで分かった。

 やはりリアルでは当たり前だが、加減が出来るのだ。



 ゲームの場合、たまに手加減とかいうスキルがあったりするが、通常はステータス通りの攻撃力でしか攻撃出来ないのが普通だ。



 もしその常識をリアルに持ち込むと加減が出来なくなって、まともな生活が送れなくなってしまう。

 怪力すぎて物を壊してしまうとか、そういうやつ。

 しかし、これまで普通に生活出来ていたことから、ちゃんと加減は出来るのだと確信していた。



 今のは人を殴るという攻撃行為に於いて、ちゃんと加減が出来るのかを確かめたかったのだ。



 ならば、同じように魔法やスキルも加減出来る可能性がある。



 ――試してみるか。



「ちっ……ちっくしょうがぁぁぁっ!!」



 仲間の二人がやられたにもかかわらず、リーダーの少年は懲りずに殴りかかってきた。



 そこで俺は心の中で小さく呟く。



 ――不可視。



 自分でも消える感覚があったのが分かった。

 彼のパンチが空を切る。



「なっ……消えた!? どこだ!」



 少年の目にもハッキリと消えているようだ。

 俺は一秒と経たずに不可視を解く。



「こっちだ」

「!?」



 少年の背後に回り込んでいた俺は、笑顔を浮かべながら彼の肩に触れる。

 そして――、



「サンダー」

「?」



 バチッ……



「いっ!? あががががががががががががががががが……っ!!」



 少年の体が感電したように震え始める。

 まるでスタンガンを浴びせたようだった。



 そのままサンダーの魔法を流し込み、数秒経った所で、



「このくらいでいっか」



 手を離すと、リーダーの少年は気を失ったように地面に倒れた。



「あ……が……」



 体をピクピクさせながらも何かしゃべっている。

 取り敢えずはちゃんと生きているようだ。



「今ので、これくらいの威力かあ……」



 少しばかり強過ぎた気もするが……。

 これで確かに、魔法も加減できることが証明された。


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