第25話 まさか……石油王!? ◇オフライン◇


 ゲームで稼いだ金がそのまま反映されてる!?



 もし、本当にそうだとしたら、えらいことだぞ……。



 俺はもう一度、自分の財布の中身を確認した。

 すると、合計で10万6千752円入っていた。



 うろ覚えだが、ゲーム内の所持金もそんな感じだったと思う。



 ただゲーム内では通貨単位がGなんだが……その辺はそのまま円になっているということでいいのか?



 覚えの無い金が財布に入っている理由としては、ステータス同期以外には考えられないので、恐らくそうなのだろう。



 ってことは……。



 これからはゲームの中で稼げばバイトしなくていい! ってことじゃないか。

 なんだこれ、最高すぎだろ。



 ちょっとゲームで頑張れば、なんでも買えちゃうじゃん!

 例えばそこにあるプレミア価格のノインヴェルト限定版とか。



 やべー……超やべー。



 レジの前で感動に震えていると、店員さんが怪訝な表情で言ってくる。



「あのー……650円……」



 買おうとしていたキーホルダーの価格を復唱された直後、俺は瞬間的に答えた。



「あ、彼女のも一緒にお願いします」

「ふぇっ?」



 一瞬、名雪さんの地声が聞こえた。

 何の相談もなく決めたので彼女は目を丸くしていたが……そんな事よりも、こんな所で初めて彼女の声が聞けるとは思ってもみなかった。



「では、お二つで1300円です」

「あ、あそこのノインヴェルト限定版も一緒に下さい」



「あ、はい。では、合計で3万2千562円になります」



 ショーケースから出される特典付き初回限定版。

 俺は財布から4万円を取り出して払った。



 思わず衝動買いしてしまった!

 でも後悔は無い!



 ホクホクしながら商品の入った袋を受け取ると、別にしてもらっていたキーホルダーを名雪さんに渡す。



「はい、これ名雪さんの分」

「……」



 彼女は呆然としていたが、そこから少し遅れて……。



 ユーノ『なんで? 悪いよ……』

「ここに連れてきてもらった御礼さ」



 ユーノ『でも……』

「金のことなら心配すんな」



 ユーノ『まさか……石油王!?』

「なんでそうなる」



 そこで俺はノインヴェルト上の所持金がリアルにも反映されていることをスマホでこっそり伝えた。



 ユーノ『それならどんどん使っちゃおう』

「おい、急にユルくなったな!」



 しかし良く考えたら、現実で現金を使ってしまうと恐らくゲーム内の所持金も減るはずだ。

 新しい装備を買おうとしていたのに、足りなくなってしまった予感……。



 でも、まあいっか!

 また、モンスター狩りで稼げばいい訳だし。



 店を出ると、名雪さんは早速、自分のスクールバッグにキーホルダーを取り付けていた。



 ユーノ『ありがとう! 大事にするよ』

「おう」



 俺も同じように自分のリュックに取り付けて、お揃いにしてみる。

 そんな時、



 ユーノ『お礼にチュウしてあげる』



 そんなメッセージを送っておきながら、彼女は茹で上がったように体をフラつかせていた。



「だから無理すんなって……」



 相変わらず、言葉と行動が噛み合ってない。

 それにしても……と、俺は考える。



 さっき、少しだけ名雪さんの肉声を聞いた。

 ということは、ちゃんと喋れるのだ。



 じゃあ、なんで喋らないんだろう?

 いつから、そうなんだろう?

 何か、そうなってしまった切っ掛けでもあるのだろうか?



 色んな疑問が沸いてくる。

 しかし、俺がいくら考えたところで全て想像でしかない。



 いずれ、その理由も彼女の口から聞ける時がくるのだろうか?



 そんな事を考えながら二人で町中を歩いていると、ふと通り掛かった路地裏から不穏な声が聞こえてきた。



「おらっ! さっさと出せよ!」

「痛え目にあいたいのか? ああん?」



 その言葉から、なんとなく予想が付くが……通り掛かったついで、隙間から様子を覗いてみた。



 すると、気弱そうなオタク風の少年が三人の不良共に取り囲まれているのが見えた。



 あー……やっぱり。



 と思いつつ、良く見るとなんだか見覚えのある連中のような気がしてきた。

 頭の毛がパーマをかけたようにアフロになっていたが、あの顔は忘れない。



 以前、俺が撃退した不良達だ。



「まだ、あんな事やってのか……。懲りない連中だな」



 そういえば、彼らに奪われた俺のバイト代、まだ返してもらってなかったな。

 金には困らない状況になったとはいえ、俺の金だ。

 この機会にちゃんと回収しておこうか。



「ちょっと行ってくる」

「え……」



 そんな事を言い出した俺に対し、名雪さんは慌てたようになっていた。



「そこで待っててくれ」

「……」



 俺は路地裏に足を踏み入れながら考える。



 さて、どうしてやろうか?

 全然、身に染みてないようだからな。

 もう二度とそんな気が起きないようにしてやる必要があるだろう。



 俺は自分でも気付かないくらい楽しそうに笑っていた。



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