第23話 時間余り過ぎ ◇オフライン◇
唐突に京也から敵意を向けられた俺だが、そもそもが勝負にならない。
日程を勘違いしてテスト勉強が出来なかったこともその内の一つだが、それ以前に彼は勉強も出来る奴なのだ。
スポーツ万能、頭脳明晰を地で行くような人間なので、俺が少し勉強した程度では勝てない。
まあ彼はそこの所も分かっているからこそ、俺に勝負を吹っ掛けてきたのだろう。
格の違いを見せつけて、また蔑む対象に俺を貶めるつもりだ。
悔しいが、こればかりは仕方が無い。
今は朝のホームルームが終わり、一時限目のテストを待っている最中だ。
本日最初の教科は数学。
初っ端から厳しめの教科である。
周りは相変わらず、教科書とノートの最終確認に掛かりっ切り。
このままだと俺は余裕をかましているみたいな感じに見えてしまうので、取り敢えず形だけでも教科書にさらっと目を通すことにした。
数学の教科書を机の上に取り出して、テスト範囲のページ開く。
今更、見た所で何にも頭には入ってこないが…………ん?
あ、あれ……??
なんだこの感覚は……。
教科書を読んだ端からスラスラと理解し、頭の中に記憶されていくような気がする。
まるで頭の中がデジタルな記憶装置になった気分だ。
読んだ箇所がファイル化されて、頭の中にあるフォルダに分類されて行くような感覚。
これもステータスが同期した影響か!
思えばサッカーの試合の時もそうだった。
敏捷と器用が、以前の数十倍にも跳ね上がっていたからこそ出来たプレイ。
恐らく、今のこれも知識のステータスが数十倍になっているからこその事だろう。
これなら数分で、テストの範囲くらいは全部記憶出来そうだぞ。
そうと分かればやるしかない。
俺は教科書の左上から右下へ向かって視線を走らせ、次々に頭の中に入れて行く。
一ページ、十秒もあれば充分だ。
記憶してはページを捲り――を繰り返す。
ものの数分で範囲部分を全て記憶してしまった。
よし、あとはちゃんと実際に使えるかだ……。
そうこうしている内に皆が教科書をしまい始めた。
先生がやってきたのだ。
早速、答案用紙が配られ、数学のテストが開始される。
まずは一問目から……。
問題を読み込むと――衝撃が走った。
まるで条件反射のように答えが導き出されたのだ。
頭が全てを理解しているのか、何の負荷も掛からずに答えが出てくる。
分かる……分かるぞ!
ってか、これ……我ながらすげーな……。
全く詰まる事無く、どんどん問題を解いていく。
すると開始数分で全ての問題を解き終えていた。
やば……時間余り過ぎちまった……。
念の為、もう一度見返してみるが、やはり間違いは無い。
それに、それも大して時間はかからなかった。
暇すぎる残り時間を過ごし、一時限目の数学テストは終了した。
これなら、他の教科もこの方法で行けそうだ。
休み時間のうちに今日行われる教科を全部、頭に詰め込んでおこう。
この後は現代文と世界史か。
よし、まとめてやってしまおう。
俺は二つの教科書を取り出し、同時に読み込み始める。
やはり、同じようにすんなりと理解、記憶出来た。
だが、その光景は周囲にとっては異様に映ったらしく、周りの席の奴らが訝しげな目で俺のことを見ていた。
何しろ全く別々の教科をチャンポンして一度に読んでるわけだから、訳が分からないだろう。
ふざけているとしか見えないはずだ。
しかし、今これをやらないと俺はこの後、困ってしまうので、構わず続けた。
お陰で、その日のテストはバッチリ。
手応えを感じた。
家に帰ってからは、その他の教科を同じように詰め込んだ。
その甲斐あって、全ての教科で滞りなく問題を解くことが出来た。
そして期末テストの全ての日程を終えた、数日後――。
俺は廊下にある掲示板の前に立っていた。
うちの高校ではテスト結果の順位を教科別に貼り出すということをしている。
上位三十人までだが、それでもそこに貼り出されると、生徒達の中で「あいつは出来る奴」という認識が高まる。
だから掲示板の前にはそれなりに人集りが出来ていた。
「うお……マジかよ……あいつ、そんなだったっけ?」
「すげえ……桐島のやつ無双状態じゃん」
「桐島君って、この前サッカーで大活躍した子でしょ?」
「勉強もすごいんだね……」
そんな声が端々から聞こえてくる。
彼らがざわつくのも無理は無い。
俺は期末テスト全十二教科の全てで一位を獲得していたのだから。
掲示板を見ていると、皆の注目が俺に集まっているのを肌で感じる。
それらは、ほとんどが羨望と憧れの眼差しだったが、中に一つだけ違った視線が混じっていた。
廊下の隅から俺のことを悔しそうに睨んでいる。
京也だ。
奴の結果は、二位の教科もあれば三、四、五位とそうでない教科もある。
普通の人間からしたら、それでも充分な結果だと思うが、俺に勝利を宣言した上で全てに於いて負け越した訳だから、相当悔しかったのだろう。
彼は歯噛みすると、すぐに何処かへ行ってしまった。
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