第22話 期末テスト ◇オフライン◇
やっちまった……。
俺は教室にある自分の席で、頭を抱えて絶望していた。
来週だと思っていたのに、今日が期末テストの初日だなんて……。
明日以降の教科は死ぬ気で頭に詰め込むしかないが、さすがに今日のは無理だ。
しかも明け方までノインヴェルトをやっていたせいで、眠気も相当きてる。
こんなコンディションでは、まともな点が取れるとはとても思えない。
ユーノと一緒で、腹を括って諦めるしかないだろう。
同調を求めるように窓際最後部の彼女の席に目を向ける。
すると、名雪さんと視線が合った。
「……!」
途端、彼女は顔を紅潮させ、慌てたように顔を伏せてしまった。
その反応。
とても昨晩、俺に告白してきた本人とは思えない。
と、そこで俺のスマホが震える。
ユーノ『もーう♪ そんな求めるような視線を送っても、学校でキスは駄目だからね?』
「……」
スマホ画面から本人に視線を移すと、彼女は耳まで真っ赤に染めて机に突っ伏していた。
発言と行動が合ってないんだが!
ユウト『どんなふうに見たらそんな視線に思えるんだよ』
ユーノ『ユウトの考えてる事なら、何でも分・か・る・よ』
そんなメッセージが送られてきた直後、机に突っ伏していた名雪さんの体がビクッと震える。
これには周囲にいたクラスメイトも何事かと驚いた様子だった。
ユウト『あんまり無理すんなよ……』
ユーノ『無理してないもん!』
「……」
無策の者同士、傷を舐め合おうと思ったが、それも無理そうだ。
今は朝のホームルーム前。
クラスの皆は、最後の悪足掻きとばかりに教科書やノートとにらめっこしている。
俺は……そうだな。
トイレでも行っておこうか。
足掻いた所で焼け石に水状態だろうからな。
そんな訳で俺は廊下に出てトイレに直行する。
そして、用を足して教室に戻る際、ひとけの無い場所で思いも寄らない人物から声を掛けられた。
「よう、桐島」
蔑むような視線でそう言ってきたのは、陽キャグループの中心的人物、
驚いた。
こいつが自ら積極的に俺に話しかけてくるなんて珍しい。
いつもだったら俺の存在すら気にも留めていないし、クラスの用事で仕方なく口を利く時も煙たそうな顔をするだけだからだ。
それが今日はどんな風の吹き回しだ?
「この前の球技大会は大活躍だったな」
「まあ」
京也は否定しない俺にムカついたようで、眉間に皺を寄せる。
これは明らかに敵意を持たれているようだ。
今までの無関心と比べてどちらがいいかと聞かれたら、難しいところだが。
「さぞ気持ちよかったろうな」
「どういう意味だ?」
すると京也は、耳元で声を潜める。
「どんなイカサマを使った?」
「……」
どうやらこいつは、この前のサッカーの試合で俺が何か仕込んでいたと思っているようだ。
確かに一人で入れた点数としては常識外れ過ぎるし、この前までクラスで目立たない存在だった俺が急に活躍し始めるのも不自然だ。
だが、仮にイカサマであったとしても、そんな点数は入れられないだろう。
何か仕込んだところで真似出来るようなものでもない。
これには俺も笑うしかなかった。
「イカサマだって? じゃあ実際、どういうイカサマをすればあれだけの点数を入れられるのか教えてくれよ」
「っ……なんだと……」
京也は言葉を詰まらせる。
「そんな方法があったら、みんな簡単にエースストライカーになれるんじゃないか? お前みたいに」
「くっ……」
彼は悔しそうに歯噛みした。
だが、意外にもすぐに平静さを取り戻し、俺にいつもの嘲笑を向けてくる。
「サッカーの事は、まあいいさ。だが、今回の期末テストは負けないからな」
「……」
それを聞いて俺は目が点になった。
あれ? これってライバル視されてる??
そんなにサッカーで活躍の場を奪われたことが悔しかったのだろうか?
自分が蔑んできた俺に負けた現実が受け入れられないのだろうか?
この様子は、それだけじゃない気もするが……。
と、そこで廊下にチャイムが鳴り響いた。
朝のホームルームが始まる時間だ。
京也は何も言わず背を向ける。
だが、歩みかけて何かを思い出したのか、こちらに振り返った。
彼は勘繰るような表情で言ってくる。
「この前、綾野と何を話していた?」
「綾野……さん?」
それは恐らく……というか確実に委員長の
この前……?
俺が彼女と話したのは球技大会の時くらいだ。
あの時の事を言っているのか?
「何を言われたのか聞いている」
「試合のことだけで、特に何も」
「そうか」
彼はそうとだけ答えると、スタスタと行ってしまった。
これって、もしかして……。
鈍感な俺でも何となく分かるぞ。
京也は綾野さんに気があるのか。
だから俺との会話を気にして……。
ライバル視されているのも、そういう事なのかもしれない。
完全な勘違いだけど。
そこまで考えて廊下に誰もいないことに気が付く。
おっと、こんな所で悠長にしている場合じゃなかった。
俺は教室へと急ぐのだった。
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