第21話 NPCも戸惑うようだ ◆オンライン◆
クエスト目標であるエルダーゴブリンを意図せず討伐してしまった俺とユーノは、ディニスの町へ戻って来ていた。
あとはクエスト達成条件であるエルダーゴブリンの骨をギルドにいるガイナに渡すだけだ。
という訳で、その足ですぐに冒険者ギルドへと向かい、ロビーで酒を飲んでいるガイナに話しかける。
「おう、兄ちゃん達か。どうだ? 例のものは手に入ったか?」
彼は赤ら顔でそう言ってきた。
そこで俺はアイテムボックスからエルダーゴブリンの骨を取り出して彼に渡す。
「おおっ、これは確かにエルダーゴブリンの骨で間違えねえ。俺様の指南を受けるに値する力の持ち主と認めようじゃないか」
ガイナがそう言った直後、
『パッパパー!』
レベルアップの時とは違うファンファーレが脳内に鳴り響いた。
見ればコンソール上にあるスキルパレットの枠が一つ増えている。
クエストの報酬だ。
やった、これでスキルが同時にもう一つ使えるぞ。
俺は早速、空きスロットにファストスペルのスキルを入れる。
「どう? そっちは」
「うん、私の方も増えた」
協力プレイ可のクエストだったので、パーティを組んでいたことで彼女の方にも同じアイテムがドロップしていた。
よって、ユーノのスキルパレットもスロットが増えたようだ。
「そういえば、この〝格闘家の指南〟ていうクエスト、枠が三つまで増やせるっていう話だったよな? このまま話しかければいいのか?」
「だと思うよ」
という訳みたいなので実際に話しかけてみた。
「あのー……」
「おう、最初の試練をクリアした兄ちゃんには、俺様の指南を受ける資格が生まれたってわけだ。早速、受けてみるか?」
「えっと、はい」
「よし、じゃあエルダーゴブリンを倒した洞窟に行って、今度はゴブリンロードを倒してこい」
「え……」
そう言われて、俺は固まってしまった。
すぐにクエスト受注の通知が。
[格闘家の指南・中位]
推奨レベル:10~15
発生条件:レベル10以上
目標:ゴブリンロードの討伐
達成条件:ゴブリンロードの首飾りをガイナに渡す
報酬:スキルパレットの増加+1
なんか色々おかしいぞ!
推奨レベル10~15なのに、俺はもうそのゴブリンロードは倒してしまっている。
しかもクエスト発生条件がレベル10以上となっているが、俺はまだレベル7だ。
どう考えてもシステム的におかしい。
「わーやったー! 一気にスロットが二つに増えるね!」
あんまり深いことを考えずに、ユーノは喜んでいた。
彼女はいい。
レベル11だから、この条件に当て嵌まってるし、話しかけるだけで達成出来そうだ。
だけど俺はどうなんだろ?
試してみるか……。
俺はすかさず持っていたゴブリンロードの首飾りをガイナの前に出してみた。
「ぬおぁっ!? も、もう持って来たのか!? どうやって!?」
NPCも戸惑うようだ。
さすが超AI、反応も人間のようにリアルだ。
「エルダーゴブリンのついでに」
「ついで……って、そういうノリで出来るもんでもないんだがな……。ま、まあ……いいだろう。認めようじゃないか」
『パッパパー!』
またもやクエスト達成のファンファーレ。
スキル枠が増えた。
今度は不可視スキルをスロットイン……っと。
そして、どうやら発生条件のレベルに達してなくても問題無いらしい。
そもそもクエストが発生してる時点でおかしい訳だし。
これ運営に問い合わせても、また仕様だとか言われるんだろうな。
そんな事を考えている最中、
「おじさん、私もこれ」
俺に続いてユーノも首飾りを取り出していた。
「誰がおじさんだ! って……嬢ちゃんもかぁぁぁっ!?」
ガイナは目ん玉ひん剥いて驚いていた。
『パッパパー!』
「わーい! また増えたー!」
両手を挙げて喜ぶユーノに対して、ガイナは頭を抱えつつも自分を落ち着かせていた。
「ま、まあ……そういうこともあるか……」
実際、彼女はクエスト発生条件のレベルに達してる訳だから、連続でクエストをクリアすることだって有り得る。
そう考えると、そう珍しいことでもないだろう。
だが――。
俺はまたもやガイナに話しかける。
もう、次は大体予想が付いていた。
「まさかこんなにも早く試練を乗り越えるとはな……。だが、次はそう簡単には行かないぜ? もう少し鍛えてからじゃねえとお前らにはまだ無理だ」
[格闘家の指南・極位]
推奨レベル:15~20
発生条件:レベル15以上
目標:ゴブリンキングの討伐
達成条件:ゴブリンキングの王冠をガイナに渡す
報酬:スキルパレットの増加+1
次のクエストを受注したようだ。
という訳で、すぐにゴブリンキングの王冠を取り出す。
「じゃあ、はいこれ」
「ほぎゃぁぁぁぁぁっ!?」
ガイナはその図体のデカさに見合わない高い声で悲鳴を上げた。
「な、ななななんでもう倒してんだ!? 兄ちゃんレベル7だろ??」
「あー……まあ、そうなんだけど、倒せちゃったんで……」
「……」
ガイナは虚空を見つめ、目が点になっていた。
『パッパパー!』
三つ目のスロットに駿足スキルを入れてみた。
ちなみにユーノはというと、クエスト発生条件にレベルが達していない為、受注出来なかったようだ。
どうやらシステムを無視してクエストをこなせるのは俺だけらしい。
「残念……」
彼女は悄気ていたがアイテムは持ってるわけだし、そのレベルになった時に渡せばいいだけだから楽と言えばそうだろう。
「もう俺様が、お前に教えることはない! 免許皆伝だ」
ガイナは開き直ったように胸を張り、カッカッカッと笑っていた。
つーか、今更だけど……格闘家の指南とかいうクエの癖に、あんた何も指南してないじゃん!?
洞窟行かせてゴブリン倒させただけじゃん!?
というのは、まあ……深く突っ込まないでおこう。
「それにしても結構時間がかかっちゃったな」
「だね。リアルでは、もうお外が明るくなる時間だよ」
ユーノはコンソール上にある現実世界の時計表示を見ながら言った。
「もう、そんなか……」
ゴブリンの洞窟を探索してた時間もかなりあったが、その道筋の森でモンスター狩りをしていたのが結構時間を取ってしまったっぽい。
あと、初心者狩りにも遭ったしな。
そういや、あいつら……俺のことをチート使ってるとか思ってそうだな……。
まあ、それはともかく、
「時間も時間だし、そろそろログアウトしようか」
「うん、そうだね。明日は期末テスト初日だし」
「えっ……」
俺はとんでもない言葉を耳にしたような気がした。
「期末テスト……?」
「そうだよ? 知らなかった?」
「いや……それ来週かと……」
「明日からだよ。間違い無い」
「……」
勘違いしてたぁぁぁぁっ!!
「マジか……」
なんも勉強してねぇぇぇぇっ!!
「てか、ユーノも大丈夫なのか? こんな時間までログインしてて……。明日の対策は?」
「私は最初から諦めてるから!」
彼女は満面の笑みで、そう答えた。
「……」
俺とはレベルの違う勇者だった!
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