第20話 ゴブリンなんていない ◆オンライン◆


 ユーノから突然の告白を受けた俺だったが、気を取り直して当初の目的である洞窟の入口へと到着していた。



「ここにクエスト目標のエルダーゴブリンが潜んでいるのか……。いかにもゴブリンが巣を作ってそうな雰囲気だな」



 中は真っ暗でじめっとしている。

 用事が無ければ、あまり入りたくない場所だ。



「長居したくない雰囲気だし、ささっと目的のものを手に入れて帰ろう」

「うん、そうだね」

「じゃあ、行こうか……って、ちょっと?」



 俺にはさっきから気になることがあった。

 あれからずっと、ユーノが俺の腕に手を回してきているのだ。



「なあに?」

「このままじゃモンスターが出た時に動きにくいだろ」

「大丈夫だよ。その時はすぐ離すから。それに固まって行動した方が安全だしね」

「それはまあ……そうだけど」



 彼女は終始ニコニコしていて機嫌が良さそうだったので、「まあいいか」と思ってしまった。



 それにしても……付き合うとは決めたけど、こういうのって色々段階を踏んだ上でするもんじゃないのか? とか思ったり。



 それはともかく、今はエルダーゴブリンの討伐が先だ。



「それじゃあ、改めて突入!」

「おー!」



 洞窟の中に入ると、外と違ってかなりひんやりとする空間だった。

 そして、思いの外、暗くて視界が宜しくない。



「奥がよく見えないな……ライティングの魔法とかあったら良かったんだけど……」

「それなら私が松明を持ってるよ」

「おお、でかした!」



「うふふ、もっと褒めて!」

「えらい! すごい! かわいい!」

「か、かわいい!? もっと言って!」

「……」



 面倒臭かった!



「ともかく、明かりを頼む」

「任せて!」



 ユーノはアイテムボックスを開くと、中から松明を取り出す。

 ただの木切れだが、取り出しただけで先端に炎が灯される。

 わざわざ火を点けなくてもいい所がゲームらしい。



「これで奥まで見渡せるよ。ほら、こんな感じで――」



 彼女はそう言いながら、火の灯った先端を洞窟の先へと向けた。

 すると、そこには――



「ひぃぃぃっ!?」

「うわぁっ!?」



 眼前に緑色をした醜い形相が浮かび上がったのだ。

 あまりに不意のことだったので俺達は揃って悲鳴を上げてしまった。



 慌てたように後方へ退くと、それがなんなのかハッキリと見えてくる。

 それは尖った耳を持つ、緑色の魔物――、

 ゴブリンだった。



 ただゴブリンは小柄なのが一般的だが、そのゴブリンはやたらと筋肉質で体格が良いように見えた。



「ギギギギギギッ……」



 だが、悠長に観察している暇は無かった。

 ゴブリンは歯軋りのような呻り声を上げて飛び掛かってきたのだ。



 俺は反射的に杖を構えて魔法を放つ。



「ファイア!」

「シギャァァァァァ……!」



 それだけでゴブリンは断末魔の叫びを上げて燃え尽きてしまった。



「ふぅ……驚かせやがって。この洞窟はやっぱりゴブリンの巣みたいな設定になってるっぽいな。気を付けながら進もう」

「そ、そうだね……」



 今度は警戒しながら洞窟を進む。

 暫くすると――、



「ギギギギギギギィッ……!」



「うわ、また出た!」

「ひっ!?」



 またもや目の前にゴブリンが現れた。

 しかし、今度のゴブリンはさっきのより小柄で、黄金の首飾りを付けていた。



 色んなタイプのゴブリンがいるんだな。

 そう思いながら、またもやファイアを放つ。



「シギャァァァァァッ……!」



 やっぱり、一撃であっさりと死んだ。



 するとそこでユーノが申し訳なさそうに言ってくる。



「なんか全部ユウトにやらせちゃってるみたいで悪いから、次は私にやらせて」

「ああ、分かった。今度は後方支援に回るよ」



 そう決めて、再び洞窟の中を行く。

 また暫く歩くと――、



「ギギギギギギギギィィッ……!」



「おっと、また出た! ファイア!」



「シギャァァァァァァァッ……!」



 死んだ。



「ええと……ユウト……?」



 ユーノが呆然とした様子で尋ねてくる。

 それでようやく気付いた。



「あ、ごめん! つい条件反射で魔法撃っちまった……」

「うん……別にいいんだけどね……。そのね……私の存在意義がね……うう……」



 彼女は瞳をウルウルとさせていた。



「悪い悪い、今度はユーノに任せるから」

「うん……」



 それにしても今倒したゴブリンは頭に王冠を乗せていた。

 さっきの黄金の首飾りをしたゴブリンといい、最近のゴブリンは羽振りがいいのか?



 ともあれ先を急ごう。



 俺達は更に洞窟を進む。

 だが、暫くすると洞窟の最奥と思しき行き止まりに行き着いてしまった。

 枝分かれしている道は全て探索したし、この洞窟は隈無く調べたことになる。



 それに、あれから一匹もモンスターと遭遇することがなかった。

 まるでこの洞窟全体が蛻の殻のようだ。



「どういうことだ? エルダーゴブリンなんていないじゃないか……」

「普通のゴブリンしかいなかったね。しかも三匹しか出てこないし」



 ユーノがふと言った言葉で、俺はハッとなった。



 まさか……。



 俺は慌てたように自分のアイテムボックスを確かめてみる。

 そこには、この洞窟で入手したアイテムが増えていた。




[アイテム]

 エルダーゴブリンの骨×1

 ゴブリンロードの首飾り×1

 ゴブリンキングの王冠×1




「っ!?」



 やっぱり……一番最初に倒した、あの体格の良いゴブリンがエルダーゴブリンだったんだ!

 しかも、その後に倒したのも名有りネームドモンスターっぽいぞ……。



 魔法が強すぎて、あんまり簡単に倒せてしまうものだから、普通のゴブリンと勘違いしてしまったのだ。



 魔法攻撃のステータスが異常に高いので、魔法の威力が底上げされてるんだろうけど、それにしてもすげーな……。


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