第19話 好き ◆オンライン◆
圧倒的な力で
これに懲りて初心者狩りなんていう行為は止めてもらいたいものだ。
そんな事を考えていると、
「いやっ! こないでっ!」
少し離れた場所からユーノの悲鳴が上がる。
見れば、
ユーノは必死に弓矢を番えて何度も放つが、相手に大したダメージは与えてはいないようだった。
おっと、そういえば、もう一人いたんだった。
他の二人をあんまりあっさり倒しちまったんで忘れてた。
まずは奴の動きを止めないと。
なら、鈍化だな。
すかさず、そのスキルを使う。
だが、発動しなかった。
「ん……あれ?」
コンソールを良く見ると、スキルゲージが20%くらいしか貯まっていない。
このゲーム、スキルを使うと次に使用出来るまでリキャストタイムが発生するのだ。
時間と共に回復して再使用出来るのだが、そんなのを悠長には待っていられない。
「しゃーない、ならこれで」
俺は杖を構え、魔法を放つ。
「アイススピア!」
体前に氷が発生し始め、細長く鋭利な槍の形を作る。
それが計三つ出来上がると、すぐさま放たれた。
ユーノに襲いかかろうとしている僧兵の背中に三本の氷槍が突き刺さる。
「ぐがっ!? な……んだ……?? う、うごげねえ……」
三分の一ほどのHPを削り、氷属性魔法の追加効果で奴の動きが鈍くなる。
その隙にユーノは離脱し、距離を取った。
そこで俺は、奴に向かって追撃の魔法を放つ。
「これが、おかわりだ」
「……!?」
杖の前で姿を覆うほどの大火球が形成されて行く。
ただのファイアだ。
「で……でけえ! そんなの……レベル7が使う火力じゃねえぞ……!!」
驚愕する男に対して俺は小さく笑みを溢し、杖を軽く振る。
それで大火球は勢いを増して飛んだ。
「ひっ……!? ひぃぃぃぃぃぃっ……!」
男は仰け反り、腰を抜かしていた。
叫び声が火球の中に呑み込まれて行く。
「そ、そんなぁ…………ごふ……」
それで
ついでに結構な経験値とお金が手に入った。
なんか、向こうから持参してくれたような感じになっちゃったな。
「大丈夫だったか?」
俺は未だ震えているユーノに話しかける。
相当、今の奴が恐かったのだろう。
しばらくの間、呆然としていた彼女だったが、俺の存在に気が付くとハッとなって抱きついてきた。
「ユウトー! 恐かったよぉぉー……!」
「うおっ!?」
前にもあったけど、急にそういうことをされるとビックリしてしまう。
これも彼女イナイ歴=年齢の性か。
「あれはハラスメント行為として運営に報告してもいいんじゃないかと思うぞ」
「だよね」
そのまま垢BANされてしまえば、もう二度と会うことはないだろう。
「じゃあ、俺が報告しとくよ」
「あ、ありがとう」
彼女は俺に抱きついたまま顔を見上げてくる。
涙目でありながらも、その安心したような笑顔を見ていると――、
やば……可愛い。
なんて思ってしまった。
いや、これまでも充分可愛かったんだけど、ここに来て再認識した。
そんなことを感じていた時だ。
「ユウトは優しいね。好きっ!」
「っ!?」
ユーノはそう言って、更に強く俺のことを抱き締めてきた。
なんだこれ……?
今、〝好き〟って言った?
女の子から、そんなこと言われたのは人生で初めてだ。
いや、でも待てよ……?
この好きは、そういう好きじゃない可能性もあるぞ。
友達として好きとか、人間として好きとか、そういうレベルの話である可能性が高い。
そもそも、こんなナチュラルな感じで言う告白もそうないだろう。
もっとこう、それなりの雰囲気ってものがあるはずだ。
桜の木の下でとか、体育館の裏でとか……。
ゲームやアニメで得た知識しかないが、そういうもんなんじゃないのか?
うん、そうだ。そうに違いない。
何を勘違いしてたんだ。
いやぁ、俺としたことが有り得ないことを想像してしまった。
となると――、
とりあえず、礼だけは言っておいた方がいいな。
「あ……ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」
「えっ! それじゃあ、OKなの!?」
「ん?」
「恋人になってくれるの!?」
間違ってたぁぁぁーっ!
「こ、恋人……って、俺と??」
「うん、そうだよ」
半信半疑で尋ねてみるが間違い無いようだ。
でも、あれか?
ノインヴェルトって結婚システムが実装されてたよな?
恋人って……もしかして、その事を言ってるのか?
「それってノインヴェルト上の……」
「違うよ」
速攻で否定された!
「な、なんで?? 俺が人に好かれる要素なんて無いし……」
「そんなことないよ。ユウトはとっても魅力的な男の子だよ」
「……」
彼女は頬を染めながら続ける。
「好きになる理由なんてないって言われるかもしれないけど……これは理屈じゃないの。前に不良から助けてもらった時から、ユウトのことが心から離れないんだもん。この人と一緒にいたいって思う気持ちは……嘘じゃないから」
「……」
マジもんの告白だった。
彼女はこちらの答えを待っているようだった。
しかし、どう答えていいのか分からない。
こんな状況に遭遇したのは生まれて初めてだからな。
前例がなければ……って、そうじゃない。
今の俺がどう感じているか、そこに正直になればいいだけだ。
ユーノのことは好きか嫌いかで言ったら間違い無く好きだ。
しかし、それが恋心かどうかは自分自身でも分からない。
あまりに恋愛に未熟過ぎるが故に判断が付かないのだ。
でも、彼女のことをもっと知りたいという気持ちは存在している。
それが付き合うという事であるなら……。
「じゃあ……とりあえず……付き合ってみる?」
「!」
彼女の円らな瞳が更に丸くなる。
「うん!」
そして幸せそうに頷いた。
これにて、この件は一先ず落ち着いたが……彼女はまだ抱きついたままだった。
さすがに、このままずっとこうしている訳にもいかない。
「じゃあそろそろ、洞窟に向かおうか」
「そうだね。でも、その前に……」
「?」
なんだろう? と思っていると、不意に彼女の顔が近付いてくるのが分かった。
「……!?」
瞳を閉じて、顎を上げ、唇が近付いてくる。
これはもしや……キスというやつ!?
こ、こんな所で!?
他のプレイヤーがいないか周囲が気になる。
初めてのキスがヴァーチャルでいいのか!?
ってか、そうじゃない。
俺達は付き合うと決めただけで、まだそういうのはもっと先のことなんじゃ?
段階ってものがあるのでは……?
そんなふうに戸惑っているうちにピンク色の唇が目の前まで迫ってくる。
「……」
とても仮想現実とは思えない柔らかそうなそれに触れようとした刹那だった。
[倫理コードに抵触したので、映像を遮断しました]
「「ふぁっ!?」」
二人揃って変な声を上げてしまった。
眼前にそんな文字がデカデカと表示され、互いの顔にモザイクがかかってしまったからだ。
そういえばノインヴェルトは全年齢対象のゲームだ。
だからそういう行為に触れようとすると、自動で画像処理が施されるようになっている。
でも、キスぐらいはいいんじゃないかと思うんだけど……。
ユーノはゆっくりと身を離す。
「むぅ……こればかりは仕方が無いね」
モザイクが取れたユーノは頬を膨らませ、むくれた顔をしていた。
そしてこう続ける。
「じゃあ、続きはリアルで……」
「……!?」
悪戯っぽく微笑む彼女。
その表情に重なるように名雪さんの姿が浮かぶのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます