第6話 VRゲーやるの!? ◇オフライン◇
「だ……大丈夫か?」
俺はへたり込んでいる名雪さんのもとへ近付くと、少し緊張しながら尋ねた。
陰キャの俺が女子と話すなんて有り得ない事態だ。
しかも、こんな近くで。
傍で見る名雪さんはとても可愛かった。
清楚を体現したような長い黒髪。
いかにも繊弱そうな白い肌。
長い睫の下には吸い込まれてしまいそうなほどの丸くて大きな瞳があった。
そんな彼女は、先ほどから俺のことをぼんやりと見つめている。
現実で魔法なんて使うやつはいないだろうからな。
相当、驚いたのだろう。
使った俺も驚いてるし。
ゲームと現実は混同しちゃいけないよ!
なんて言葉があるが、この状況は混同せざるを得ないだろう。
「何かされてない? 怪我とかは?」
更に尋ねると、彼女は無言で首を横に振った。
その反応からして、取り敢えずは大丈夫そうだった。
しかし、この状況をどう言い訳したらいいだろう……?
助ける為だったとはいえ、彼女に魔法を見られてしまった。
ゲームと同じ力が使えることが周囲に知れたら、色々と面倒臭いことになりかねない。
ん、そうだ。
あれは花火ってことにしようか?
ああいった奴らに絡まれることがよくあるので、普段から護身用に持ってるってことにして……。
いや……でもさすがにそれは、ちょっと無理があるか……。
なんてことを考えていると、目の前にいる名雪さんが急にスマホを取り出して、何やら画面を弄り始めた。
どうしたんだ? 突然……。
そのまましばらく待っていると、事を終えたのか彼女が画面をこちらに向けてくる。
そこにはメモ帳アプリか何かが開いていて、こういう文字が書かれていた。
『ありがとう』
え……?
なんで、わざわざスマホで?
疑問に思って顔を窺うと、彼女は急に頬を赤く染めて恥ずかしそうに視線を逸らしてしまった。
そういえば、名雪さんてこういう感じの人だったと思い出す。
クラスの隅でいつも一人。
誰とも喋らないし、声も聞いたことが無い。
俺も今日初めて彼女と話すので詳しいことは分からないが、恐らく極度の人見知りなんだと思う。
それでも必要な時、どうやってコミュニケーションを取ってるんだろうと思ったが……いつもこんなふうにしてたのか?
「いや、俺はたまたま通り掛かっただけだから……。それよりさっきの事なんだけど……」
続けて魔法についての言い訳をしようとした時だ。
またもや彼女がメモを見せてきた。
『魔法すごかったね』
「!?」
魔法を魔法として受け入れられた!?
まさかの発言に戸惑いながらも恐る恐る尋ねる。
「な……なんで魔法だって分かったんだ??」
『手から炎=魔法』
「いや、まあ……そうかもしれないけど、普通はそんなにスムーズに受け入れられるものでもないよな?」
『VRゲームばかりやってるから、あまり違和感無い』
なるほど、VRの世界も現実と変わらないくらいリアルだもんな。
そこで毎回魔法を見ていると、実際に現実で起こってもあまり驚かない…………わけないだろ!
受容するの早すぎ!
それもビックリだが、その他にも驚いたことがあった。
「って、名雪さんってVRゲーやるの!?」
『やる』
そいつは驚いた。
まさか名雪さんと俺に共通点があるとは。
『最近はノインヴェルトにはまってる』
「ええっ!? マジで! それ、俺もやってる!」
更に同じゲームに嵌まってるとは思ってもみなかった。
『本当に? サーバー名は?』
「ウロボロスサーバーだけど」
『私も同じ』
「えっ!? じゃあ、どこかで会ってるかもしれないな」
『今度、一緒にクエストやらない?』
「ああ、もちろん! 喜んで」
『じゃあアバター名、教えて』
「分かった」
そこで俺達はアバター名を交換し、ついでに携帯の連絡先まで交換した。
そのまま二人の間でノインヴェルトの話に花が咲き、こんな路地裏で話し込んでしまうことに。
気が付けば数時間が過ぎていた。
しかしその間、彼女はずっとメモで会話。
それが妙に気になるのだった。
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