第3話 レベル上げに行こう ◆オンライン◆


 闇の中に一点の光。

 それを感じ取った瞬間、光が一気に広がって、目の前の視界が開けた。



 目に飛び込んできたのはオレンジの屋根と石造りの家々。

 中世ヨーロッパを模した統一感の取れた街並みは、ファンタジーRPGの定番の風景だ。



 前作でも、本物と見紛う作り込まれた街並みには息を呑んだが、それは本作も健在。

 そして何よりも興奮したのは、町を行き交う人々の息遣いだ。



 目の前に歩いているアバター達の向こう側には生身の人間が存在していることになる。

 そういうこともあって、人々の仕草や表情に前作以上のリアルさを感じたのだ。



「おおー……これがノインヴェルトの世界か……」



 感動を噛み締めるように、しばらくその場で立ち尽くす。



 っと……思わず浸ってしまった。

 とりあえず現在地を確認しないと。



 俺は指先を宙に走らせマップ画面を開いた。

 半透明のウインドウ上にノインヴェルトの世界地図が表示される。



 ノインヴェルトはノインの名の通り、九つの種族とそれに対応した九つの国で成り立っている世界だ。



 人間族が統制を取っている国は大陸の東にあるルマナント共和国。

 俺も人間族なので、初回のログイン地点はルマナントのはずだ。



 自身を示すマップ上の光点も確かにルマナントの首都ディニスで光っていた。



 通りにはエルフとかドワーフなど人間以外のプレイヤーの姿も窺えたが……、



「リリース初日でもう他国まで来てるプレイヤーもいるのか……」



 進行の早いプレイヤーが気になるが、現在地についてはOK。

 あとは装備品の確認っと……。



 マップ画面から装備・アイテム画面へ切り替える。




[装備]

 右手武器:木の杖

 左手武器:なし

 頭:なし

 胴:布のローブ

 手:布のグローブ

 脚:布のパンツ

 足:布のブーツ


[所持品]

 カタカタの実×5


[所持金]

 300G




 初期装備らしい装備が並ぶ。

 こちらも特に問題無い。



 一つだけ気になるのは、初期配布アイテムのカタカタの実だ。

 これはどんな効果があるんだろう?



 アイテムの名前をタップして詳細を見てみる。




[カタカタの実]

 使用すると敵からのダメージを三回まで無効化できる。

 規定回数に達するまで戦闘終了後も効果持続。




 なるほど、戦闘時の補助アイテムか。



 レベル1の頃は何かと死にやすいもんな。

 思い掛けず格上の敵に絡まれてしまった時に役に立ちそうだ。



 結構使える部類のアイテムで、初心者には嬉しい限り。



 そんな感じで一通り確認したところで……、

 チュートリアルも兼ねて早速レベル上げに行こう。



 町の探索も楽しいけど。まずは強くならないことには何も始まらないからな。



 そんな訳で俺は町の正門から外に出た。



 すると、眼前に広がる草原にお決まりのアイツが蠢いていた。



 透明でぷよぷよした丸っこい魔物。

 スライムである。



「やっぱ、初期のレベル上げと言えばスライムだよなー」



 まさに安心、安全、確実、それを体現化したような魔物。

 戦闘の感覚を掴むのにも丁度良い。



「じゃあ、早速……と、その前に」



 ふとアイテム画面を呼び出し、カタカタの実を一つ使う。



 もしも……ってことがあるし、一応使っておいた方が無難だろう。

 最初に配られるってことは、そういう事なんだろうし。



 という訳で今度こそ準備完了。



 改めて一匹のスライムをタゲると、唯一使える初級魔法ファイアの射程距離最大まで下がる。



 スライムといえども案外、強かったりする場合もあるからな。

 充分な距離は取っておいた方がいいだろう。



 しかも俺は魔法使いウィザード

 物理防御値が低いから油断は大敵だ。



 俺は右手に持った杖を構え、意識を込める。

 すると、杖の先に炎が渦巻き始め、小さな火球が形成されてゆく。



「……ファイア!」



 そう叫ぶと火球がスライム目掛けて放たれた。



 システム的に別に叫ぶ必要は無いんだけど、それの方が臨場感があって好きなのでそうしてみた。

 中には自分で考えた長い長い詠唱を唱えて雰囲気を楽しむプレイヤーも、こういったVRゲームには多いらしい。



 で、飛んで行った火球はというと、見事にスライムに命中。



「ギュィィィッ」



 という聞いたことも無い叫びを上げた。

 しかし、一発で倒せるはずもなく、スライムは反撃に出る。



 まるでゴムボールのように左右跳ねながら、俺に向かって飛んでくる。

 それは思いの外、素早い動きだった。



「わわっ!?」



 まさか、そんな速さで攻撃してくるなんて思ってもみなかったので回避が遅れた。

 俺の胸を目掛けて、スライムの体当たりが突き刺さる。

 だが直後――、



 パリーン



 というガラスが割れたような音がして、俺の目の前に盾が砕けるエフェクトが光った。



 恐らくそれはカタカタの実の効果が発現された結果だろう。



 やば……使っておいて良かったー。

 用心しておいて、これだもんな……。



 でも今の攻撃、初めてだったから避けられなかったけど、タイミングをちゃんと計れば回避出来そうだ。



 そうこうしている内にスライムは二撃目の体勢に入った。



 ゼリーのような体がぷるぷると左右に震える。

 それが体当たりの合図だった。



 来る……!



 俺は僅かに身を横に逸らせた。

 それだけでスライムの攻撃は外れる。



「……よし、今だ!」



 カウンター攻撃が如く、ファイアを叩き込む。



「ギュボォォ……」



 炎に包まれたスライムは溶けるように消えて行く。

 完全に姿が消え去ると、経験値と取得金の詳細が視界の端に表示された。



「ふぅ……」



 ビックリしたー。

 でも、今のタイミングでやれば、スライムに関してはノーダメージで経験値を稼げそうだ。



 この調子でどんどん稼ごう。



 コツを掴んだ俺は、そこから地道にスライム倒し、経験値を稼いでいった。



 気が付けば四度目のレベルアップファンファーレ。




[ステータス]

 名前:ユウト  種族:ヒューマン

 LV:5  職業:魔法使い

 HP:101/101  MP:180/180

 物理攻撃:35  物理防御:35

 魔法攻撃:106  魔法防御:98

 敏捷:41  器用:46

 知識:87


[魔法]

 ファイア〈火属性〉 Lv.3


[スキル]

 鈍化 Lv.1




「おっ、初めてスキルを覚えたぞ。鈍化って何だ……?」



 ステータス画面から詳細を覗いてみる。




[鈍化]Lv.1

 一定時間、対象の知識と敏捷を10%減少させる。




「ほほう、これは地味に使えそうだな」



 素早い敵とか、魔法を使ってくる相手には有効じゃないだろうか。



 それにしても結構長い時間やってるけど、なかなかレベルが上がらないな。

 必要経験値も上げ幅が大きくなってきてるし、そろそろスライムだけではキツそうだ。



 狩り場を変えてチャレンジしたい所だけど、ちょっと疲れた。

 今日はこの辺で終わりにしておこう。



 俺は町へ戻ると、正門近くでログアウトした。



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