05 ただのモブ
私なんかが偉そうに言っていい事ではないかもしれない。
けれどそれでも、私は言った。
ウォルド様は、友達のために世界を敵にまわして戦っている。
今のこの世界の常識を壊してしまう行為だ。
それはいうならば、自分のための戦い。
けれど私達だって、自分勝手な理想と幻想を抱いて、ウォルド様をアイドル扱いして応援している。
だから、何も気に病む必要はないのだ。
百パーセント善意で互いに協力することなど、不可能だと思っている。
人間は、ある程度の利益がないと、動かない。
私はそう思っている。
だから、そう述べてみせるとウォルド様が苦笑した。
応援されるほどの人間じゃない、と。
それを決めるのは私達だ。
ウォルド様が、世界を助けたいとまで思った、大切な友達の価値を自分で決めたように。
私達も、私達で勝手に、ウォルド様の価値を決めていく。
ウォルド様の一挙一動に救われるのも、幻滅するのも全部が全部、私達の判断だ。
そう述べたら、ウォルド様は苦笑した。
そして最後に、私に会えて良かったと言って笑った。
ウォルド様はめったに笑わないのに。
私はどうやら、夢にまで見たこのウォルド様の力になれたらしい。
翌日ウォルド様と変な女性は旅立っていった。
夢のようなひと時だった。
白昼夢でも見ていたのではないかとすら思った。
だが、後日ファンクラブシステムをみて、幻でもなんでもないのだと分かった。
私はきっと、ただの一般人、ただのモブだけど、押しキャラの力になれたのなら良かった。
特に私の日常は変わらない。
だけれど、ファンクラブシステムの情報を読みながら、手の届かないウォルド様の活躍を思う以外に、ほんの少しだけ思い出し笑いする回数が増えたようだ。
異世界転生したモブが押しキャラと出会った一瞬の話 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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