03 変な女性との出会い



 生まれてから十数年。

 前世の記憶は朧気で、もうあまり思い出せなくなってしまった。


 それでも、ウォルド様の事だけはしっかりと覚えている。

 あの姿も、あの声も。

 私の記憶の中ではいつだって鮮明だ。


 彼がしゃべったセリフの一言一言、きっちりと思い出せるだろう。


 しかし、そんな事をいったら、君が悪いと思われるだろうから、前世の事は誰にも話していない。

 私の胸の中に、とどめておくだけにしている。


 しばらくして、ウォルド様の指名手配所が出回るようになった。

 これは、ストーリーの序盤の出来事だ。


 ついに物語が始まってしまったのだろうか。

 何のとりえもない私は、遠くから彼を応援することができない。


 しかし、そんな運命が変わったのは、それから数日後。


「ウォルド様は、すんばらしい人! でやんす!」


 はぁ。


「おじょーさん! そんなウォルド様について語り合いませんか?」


 えっと。


「聞くも涙! 語るも涙! 実はウォルド様にかぶせられた罪は、濡れ衣だったのです!」


 そ、そうですか。


 こんな具合に、とうとつに話しかけられた。


 前世でも今世でも出会った事が無いような女性に。


 そして、あれこれと「悲劇のウォルド様」について説明されて、最終的には同士にされてしまった。


 言動のおかしい女性にからまれて、強制的にウォルド様のファンクラブに入れられた。


 なんて、周りの人には言えないので黙っているが。


 こんな人、原作にいなかったずなのだが。


 彼女はウォルド様と行動をともにしているらしい。

 脱獄仲間、脱友とか言っていた。

 それで、ウォルド様に惚れた彼女は、彼の旅に同行しているらしい。


 ちょっと、初対面の人間に対する行動が想像できない少女だ。


 それで、その少女の手によってファンクラブに入会させられた私には、定期的に連絡が入るようになった。


 ウォルド様のすばらしい所を延々とつづられた文章、ポエム。


 武勇伝。


 旅の進捗状況。


 などなど。


 ファンクラブに入った人間は、ゲームのウィンドウみたいなのが出現して、そこに記載されているデーターが読めるらしい。


 こんなことができる能力をもった人は、絶対原作にはいなかった。


 私は私以外の転生者の存在を疑った。


 しかし、どうでもいいことだ。


 その女性が悪人でないのならば。


 私の代わりに、どうかウォルド様を助けてあげてほしい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る