第14話 敵の上位はバイオレンス打線

 俺は『魔球』を握ると投球モーションに入った。すると敵の一番手らしい男が棒状の武器を構え、にやりと笑った。


「二年Σ組の蛭田ひるただ。今日は四番がいないんで、俺が一、二番を兼ねるぜ」


 蛭田が構えた武器は、良く見ると青白い光を放っていた。電撃系かプラズマ系の武器だなと俺はあたりをつけた。


「行くぜ!」


 俺は大きく振りかぶると『黄金の』左腕を一気に振り切った。ランダムに曲がる可変スライダーだ。


「へっ、ドンピシャだぜ!」


 蛭田のスウィングは俺の球を変化する直前に捕え、炸裂音と閃光があたりを満たした。


「死ね!」


 蛭田が叫んだ直後、俺はのけぞりながら右手を前に突きだした。次の瞬間、凄まじい衝撃が右手に伝わり、俺はラウンジのテーブルに激突した。


「ぐあああっ!」


 俺が痛みの中で耳にしたのは、蛭田の絶叫だった。俺が右手に擦りこんだ特殊ロージンは受けた衝撃を数倍にして相手に跳ね返すのだ。奴はピッチャー返しでカウンターを狙ったつもりだろうが、増幅された球威をダブルカウンターで受けたのは自分の方だったというわけだ。


「ふふん、やるじゃねえか、ルーキーさんよ。次は俺がお相手するぜ。同じく二年Σ組の夜叉瓦やしゃがわらだ」


 そう言って進み出てきたのはやたらと顔の長い、野生の馬を思わせる風貌の男だった。


「行くぜ」


 夜叉瓦はそう言うと、持っていた棒を水平にした。


「おいおい、ランナーもいないのにバントかい。フォームを崩させようったってそうはいかないぜ」


 俺はポケットから次の『魔球』を取り出すと、握り方を模索した。こうなったらストレートであの武器をへし折ってやるか。俺は腕をしならせると、ありったけの力で腕を振った。次の瞬間、敵の武器は俺の渾身のストレートを受けて轟音とともに四散した。


「やった!」


 俺が快哉を叫んだ、その時だった。爆炎の中から夜叉瓦が猛烈な勢いで突っ込んで来るのが見えた。俺は咄嗟に支給された特殊警棒を構えると、夜叉瓦が繰りだしたナイフを受け止めた。


「力で俺に勝てると思うのか」


 夜叉瓦はナイフから手を離すと、肘で俺の下腹部を狙った。


「――ぐっ」


 俺は呻きながら吹っ飛び、ラウンジの床に転がった。


「口ほどにもないな、壱係のエース。開幕早々、気の毒だが故障者リストに入ってもらうぜ」


 夜叉瓦は不敵に笑うと両手に棘のついたサックをはめ、大股で近づいてきた。


「くそっ、ラフプレー野郎め……」


 俺は知りもちをついたまま悪態をつくと、そっと尻のポケットから二つ目の特殊ロージンを取りだした。俺は後ろ手でロージンを掴むと、夜叉瓦が上げた足の下に勢いをつけて放った。


「――むっ?」


 夜叉瓦がロージンを踏むと脚がその場に固定され、身体が前のめりになった。


「今だ!」


 俺は弾かれたように跳ね起きると、夜叉瓦の顔面に電磁シールドを巻きつけた。


「があっ」


 俺はシールドの端を持って駆け、転がっている特殊警棒のジャックに差し込んでスイッチを入れた。次の瞬間、夜叉瓦は身体を激しく痙攣させ、そのまま糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。


「乱闘は好きじゃないんでね。早めに片をつけさせてもらったよ」


 俺がぴくりとも動かない夜叉瓦に向かって言い放つと、離れた場所で大きな物体が振り回される気配があった。


「ふふん、やるじゃねえか。いいだろう、勝負だ壱係のエース」


 声のした方を見ると、片目に眼帯をした男が黒い棒を手にこちらを威嚇しているのが見えた。


「三年Ω組の崖渕がけぶちだ。なんでもいいから、お前さんの得意な球を放ってみな。俺様がこいつでとらえた瞬間、貴様は病院送りだ」


 崖渕は挑むような口調で言うと、黒い棒を俺の方に向けこれ見よがしにつき出した。



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