第10話 禁断のボールに魅入られた男
「あいつ『ファイヤーボール』に手を出してたんすよ」
押田という被害者の知人を名乗る男性は、第四学食のかけそばを啜りながら切りだした。
「『ファイヤーボール』?なんだそりゃ、新型の銃か?」
「さあ、武器なのかクスリなのか、その辺のところは俺も知らないんですが、物騒な物であることは間違いないと思います」
「あんたと被害者の関係は?」
「お互い校内アイドルの追っかけをしてて、何となく以前から顔見知りだったんですよ。あいつは絵が上手かったから、推しの子の似顔絵を描いたりしてね」
「じゃあ、この似顔絵の子が誰かってこともわかるかな」
リードがガイシャの遺品でもある少女の絵を見せると、押田ははっとした顔になった。
「知ってます。うちの妹のクラスメートだった子で、知亜とか言う名前だったと思います」
「この子もアイドルだったのかな」
「アイドルっていうか……何かと噂に上る子でしたね。ほとんど授業に出てないのに、常に成績上位者に名前が載ってるし、不良グループのボスに言い寄られてるって噂もありました。でも極めつけは死亡事故の現場でなぜか頻繁に目撃されるっていう「死神伝説」ですかね」
「死神って……だってその子は実在する生徒なんだろう?」
「だと思いますけどね。それで、その子の話かどうかは知りませんが、井石の奴は「今、はまってる子に「自分と付き合いたかったら『ファイヤーボール』を手に入れて」って言われてるんだ」と言ってました。俺も『ファイヤーボール』がやばい物だってことは知ってましたから「やめとけよ」って言ったんです。いくらアイドルのためと言っても、闇社会で取引されてるブツに手を出したら、おしまいでしょう」
俺は唸った。アイドルと闇社会は一見、遠いようだがスポーツ界と同様で実は、隣り合わせなのだ。
「でもどうしてその女の子は闇社会のブツなんかをねだったのかな」
「わかりません。ただ、井石は『イモ―タルソサエティ』の連中と親しかったみたいだから、あの連中から手に入れられると見込まれたのかもしれません」
「『イモ―タルソサエティ』か……これはまた厄介な奴らの名前が出てきたな」
リードは腕組みをすると、整った顔をしかめた。『イモ―タルソサエティ』とは理数系の成績優秀者だけで構成された選抜クラスの異名だった。機械に詳しい工学系の秀才もいれば、薬学に詳しい生徒もいるなど、身分こそ学生だが実質的にはスペシャリストの集団だった。
「つまりあんたは『ファイヤーボール』は、『イモ―タルソサエティ』の連中が作りだした物だというんだな?」
「さあ、そいつはわかりません。ただ俺たち一般生徒の立場で見れば闇社会も『イモ―タルソサエティ』も中身がわからないっていう点じゃ大して変わらないですからね」
「なるほど、仮に『ファイヤーボール』が偶然、あるいは闇社会からの依頼で作られた物だとして、その存在を知った井石が連中の元から盗み出した可能性は十分にあるな」
「じゃあ、井石を消したのは『イモ―タルソサエティ』のエリート連中だってことですか?」
俺が驚いて尋ねると、リードは少年のような顔に不似合いな皮肉めいた笑みを浮かべた。
「それか、エリート集団と闇社会が結託して殺したか、だな」
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