第9話 応援ボードには死のメッセージを


 奇妙な味のコーヒーを飲み終えた俺とリードが次に訪ねたのは、旧校舎でアイドルもどきの活動をしているという女子生徒たちだった。


「知ってる?この肖像画の子をかい?」


 リードが制服を改造したらしいコスチュームの少女に尋ねると、少女は首を振って「ううん、この子じゃなくて、死んだ井石って人よ。時々、あたしたちのステージを見に来てくれてたの。話下手みたいで、写真を撮る時もぼそぼそって聞きとりにくい声でしか喋らないんだよね」と言った。


「ほかに何か、気づいたことは?」


「あ、その聞きかた、刑事みたいでカッコイイ」


「参ったな。刑事なんだよ、俺たちは。……で、被害者に関して他に知ってることは?」


「ううん、グッズ代を稼ぐためにちょっと危ない仕事も手伝ってるとか言ってたな。詳しくは聞かなかったけど」


「危ない仕事か……」


 リードの目が鋭くなった。どうやら旧校舎アイドルを訪ねたのはビンゴだったらしい。


「最後に見かけたのは、いつ?」


「ええと……先週かな。武道館ライブの時だったから」


「武道館?……ああ、柔道とかの時に移動する建物か。西側の別棟だな」


 俺はひらひらのコスチュームをまとった女子生徒が畳の上で踊る姿を思い浮かべ、苦笑した。旧校舎では生徒の商業行為は禁じられていない。麻薬や拳銃さえ売らなければ別に水商売を営んだってかまわないのだ。


「井石さんはカメラを持って前列の方に陣取ってたんだけど、ライブ中に突然、やばいって叫んで走りだしたの。なんか怖い人に追われてるように見えたわ」


「怖い人か……相当、やばい仕事に手を染めてたようだな」


「私たちのグッズを買うためだったとしたら、嬉しいけどなんだか怖い……でも」


「でも、何です?」


「以前、ちょっと聞いたことがあるんです。「今、ちょっと推してる子がいるんだけど、アイドルじゃないからなかなか会えないんだよね」って。もしかしたらその子に会うために、お金が必要だったのかなって」


「ふうん……そりゃあ興味深いな。貴重な話をどうもありがとう」


 俺たちは旧校舎アイドルに礼を述べると、いったん壱係に戻ることにした。


 昼間でも薄暗い階段を降りているとふいに、リードの携帯端末が鳴った。


「リード、ゼロ、部屋にすぐ戻ってこれる?井石と付き合いがあったっていう人から情報提供の申し出があったの。人目につかないところでなら会って話を聞かせてくれるそうよ」


「そいつは好都合です、ボス。こっちも井石に関する新たな情報を仕入れたところなんで、ネタをつき合わせてみましょう」


 リードはそう言うと、俺の方を見てにやりと笑った。


「どうやらやっと事件らしくなってきたようだね、新人君」


 爽やかな好青年が一瞬で刑事の顔になるのを見た俺は、背筋がぞくりとするのを覚えた。


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