第5話 四番は二死で秘策のサインを見る
「満を持して四番の登場ってわけか。……いいぜ、来な」
ボスは薄笑いを浮かべると、顎をしゃくってみせた。レッドは両の指に金属のサックをはめると、ボスの前に進み出た。
「悪いがしばらくの間、ゲームには出られなくなるぜ、大将」
「ふん、素手で俺のナイフとやり合おうってのか。面白い。……じゃあ行くぜ!」
二人の間で風が動いたかと思うと、レッドの頬を刃が掠めた。見切ったか、そう思った瞬間、「うっ」という声がしてレッドの袖が切り裂かれるのが見えた。
「ははは、やはり的が大きいと狙いもつけやすいな、うん?」
ボスが嘲りの声を上げ、レッドがひるんだように身を引くのが見えた。
「ばかめ、間合いを取れば仕切り直せるとでも思ったか?」
ボスが口元を捻じ曲げると、ナイフの刃が伸びてサーベルのように変化した。
「くたばれ、木偶の棒!」
ボスが刃を振り降ろした瞬間、がちんという硬い音が響き渡った。レッドの指サックから水平に伸びた金属シャフトがボスの刃を受け止めたのだ。
「俺の一撃をよく受け止めたな。だがここまでだ。この距離じゃあフルスイングもできまい。ツーアウトフルカウントだ、壱係」
ボスが鼻を鳴らすと、シャフトに食い込んだ刃が赤く染まり始めた。どうやら表面に熱を発する加工を施しているらしい。シャフトが徐々にたわみ始め、レッドの顔が苦し気に歪んだ。
「顔の真ん中に、敗北印の焼き印を押してやるぜ」
シャフトが限界までたわみ、熱せられた刃がレッドの顔面に迫った、その時だった。
「――がっ」
突然、ボスがのけぞったかと思うと、手から武器が落ちた。レッドが着けているレッグガードが斜め上にスライドし、ボスの顎を直撃したのだった。
「わかったかい旦那。四番でも必要とあらばセーフティスクイズぐらいはするってことが」
レッドは愉快そうに笑うと、「それじゃ遠慮なく通らせてもらうぜ」と言って拳を固めた。
「ばかな、吹き溜まり組の連中ごときにこの俺がやられるとは……」
ふらつきながら恨み節を口にするボスに、レッドが「クリンナップと言ってほしいね」と言って右ストレートを見舞った。ボスは後ろざまに吹っ飛び、積み上げられたタイヤに激突した。
「よし、オールセーフで先制点だ。一回表は壱係のリードで締めくくらせてもらうぜ」
レッドはそう言うと、肩越しに振り返ってにやりと笑った。俺たちは崩れたタイヤと木箱を掻き分けるようにしてバリケードを突破すると、仲間の待つ事件現場へと向かった。
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