第4話 勝利に向けてポジションを取れ


「お前たちに勝ち目はない。おとなしく部屋に戻ってデスクワークでもしていた方が身のためだ」


 変形学生服のボディガードは、眉一つ動かさずにそう言い放った。


「そりゃあどうかな。……レッド、先にやらせてもらうぜ」


 ヤサが短く吐くと、一歩前に進み出た。一メートル八十以上はあると思われるボディガードと百六十センチもなさそうなヤサとでは、どう見てもこちらの分が悪そうに見えた。


「じゃあ、こっちからいくぜ。強面の旦那」


 ヤサは距離を詰めずに言うと、小柄な体をさらに縮こまらせた。ヤサの手が動くのと同時に光るものが放たれ、何かがボディガードの手首に絡みつくのが見えた。


「そらよっと」


 ヤサが手首を返すと、ボディガードの身体が前に傾いだ。どうやらヤサが放った物は細かい鎖に分銅がついた武器らしかった。


「これでフィニッシュだ、強面さん」


 ヤサの右手に十手型の電撃棒が見えた瞬間、ボディガードが信じがたい動きを見せた。


 身体を百八十度ひねると床を蹴って跳び、そのまま頭上を超えてヤサの背後に降り立ったのだ。


「痛えっ」


 鎖を掴んでいたヤサは後方に引き倒され、後頭部を床にしたたかに打ち付けた。


「身体の大きさを見てあなどったか?あいにくとフットワークは軽い方だ」


 ボディガードは無表情のまま形勢逆転を告げると、手甲から鋭くとがった針を出した。


「麻痺剤の効果は一時間だ。できるだけ痛くないところを狙ってやろう」


 ボディガードが低い声で言い放って左手を振り上げた瞬間、ヤサが口から何かを吐くのが見えた。


「――うっ!」


 黒いタール状の物がボディガードの顔に貼りつき、ヤサの姿が消えたかと思うと次の瞬間、「ぐっ」というくぐもった呻き声が聞こえた。


「タッチアウトだ、兄さん」


 身長の低さが幸いしたのだろう、ヤサの繰り出した拳はボディガードの股間に綺麗にヒットしていた。


 ボディガードはそのまま固まると、声も上げずに後方に倒れた。


「ちょっとラフプレーだったかもしれないが、これも捜査のためだ、勘弁してくれ」


 ヤサは涼しい顔でそう言うと、ボディガードの身体を廊下の隅に転がした。


「さて、これで残りはあんただけだぜ、大将」


 レッドは前に進み出ると、苦虫を噛み潰したような顔のボスに向けて言い放った。

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